下り坂で自転車のペダルはなぜ勝手に回らないのか? 「ラチェット機構」の役割身近なモノから学ぶ機構設計“超”入門(5)(2/2 ページ)

» 2020年05月12日 10時00分 公開
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自転車の後輪部に隠された「ラチェット機構」

 では、自転車のどこにラチェット機構が隠されているのでしょうか。筆者もこの記事を執筆するに当たり、息子の自転車をまじまじと眺め、ペダルや前輪/後輪を回しながらその動きを確認してみました。何となく想像が付きますかね……。

 それは、自転車の後輪部です(図4)。

図4 ラチェット機構のある自転車の後輪部(赤色の丸印部分) 図4 ラチェット機構のある自転車の後輪部(赤色の丸印部分) [クリックで拡大]

 皆さん、不思議に思ったことはありませんか?

 自転車のペダルを漕ぐと、ペダルに直結したギアが回り、チェーンを介して後輪のギアに力が伝わり、自転車が前に進みます……。ここまでは、当たり前といえば当たり前のことです。

 しかし、一度スピードが上がり切ったとき、もしくは下り坂を下るとき、皆さんはペダルを漕ぐのを止めて自転車が勝手に進んでいくのに身を任せてはいないでしょうか。このとき、なぜタイヤの回転と一緒にペダルは回らないのでしょうか?

 ペダルを回す力を後輪に伝えているのであれば、後輪が回る力もペダルに伝わるのが普通ではないでしょうか。また、自転車はペダルを回して前進はできますが、ペダルを反対に回して後退することはできず、ペダルは空転します。しかし、自転車を手で後ろに押すとペダルは回り始めます。同じタイヤやペダルを回転させるという動きなのに、なぜ結果が異なるのでしょうか。

 もうお分かりですよね。それは、後輪の車軸部分にラチェット機構が付いているからです。

 では、実際に自転車の後輪では何が起こっているのでしょうか。図5に示した簡易図を見ながら確認していきましょう。センターの黄色の部分が、ペダルと連動して回転する部分です。周りの赤色の部品がタイヤとつながっており内側に爪とかみ合う歯が付いています。青色の部品がその歯とかみ合う爪です。

図5 自転車の後輪部で何が起きているのか? 図5 自転車の後輪部で何が起きているのか? [クリックで拡大]

 (1)ペダルを漕いで自転車が進んでいる状態です。歯と爪がかみ合っているため、ペダルを漕ぐ力がタイヤに伝わります。(2)ペダルを漕ぐのを止めてタイヤだけが回っている状態です。爪はかみ合いませんので、ペダルに力が伝わることはありません。(3)タイヤは回転せず、ペダルを逆回転させている状態です。回っているものは違いますが爪の動きは(2)と同じになります。

 自転車の中にはランニングフェースラチェットを使用したものもあり、一概に全ての自転車が同じ機構とはいえませんが、おおむねこのような仕組みとなります。

 このラチェット機構のおかげで、私たちは便利に、安全に、自転車に乗ることができます。もし、ラチェット機構が自転車に付いていなければ、坂道を下るときペダルは高速で回り続け、それに併せて足を高速で回し続けなければなりません。また、自転車に乗るときペダルが逆回転で空転しなければ毎回漕ぎ出しのペダルの位置を合わせるために、自転車を動かしながら位置を調整しなければなりません。



 今回の自転車のラチェット機構のように、普段当たり前に使っていて、疑問にも思っていなかったところに便利な機構が隠れています。当たり前を当たり前と思わず、興味や疑問を持って観察することで新しい発見やアイデアが浮かぶこともあるはずです。皆さんもぜひ探してみてください。それでは、また次回お会いしましょう! (次回に続く

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筆者プロフィール

久保田昌希

1981年長野県生まれ。大学卒業後、大手住宅メーカーの営業職に就くも退職。その後に就いた派遣コーディネーターの仕事で製造ラインの人員管理などを行い製造業に関わりを持つ。その中でもっと直接モノづくりに関わってみたい、自分で製品を生み出してみたいという思いが強くなり、リーマンショックを機に退職。職業訓練で3D CADや製図、旋盤やマシニングセンターの使い方を学んだ後、現在のプロノハーツに入社。比較的早い段階から3Dプリンタを自由に使える環境に身を置けたため、設計をしてはすぐに社内試作を繰り返し、お客さまからもたくさんのご指導を頂きながら、現在では医療機器からVRゴーグルまでさまざまな製品の開発、試作品の製作を受託。その経験を生かし子供たちに向けた3D CADや3Dプリンタの使い方講座なども行っている。


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