翻って、各種物流ロボットを開発・製造するメーカーにとって、刻下の状況は事業拡大に適した好機といえます。Eコマース市場のさらなる成長は確実であり、物流センターでの出荷作業は明らかに増加しています。一方で、日本をはじめとする先進国では人手不足が顕著であり、省人化を実現する物流ロボットの必要性は日増しに高まっています。AI(人工知能)やセンサーといった関連技術の進化次第とはいえ、物流ロボットの潜在市場は極めて大きいはずです。
ローランド・ベルガーが2016年に取りまとめたレポート「Of Robots and Men - in logistics」※)では、2030年までに、欧州の物流センターで働いている作業員の約4割はロボットに代替されると予測しています。実人数に換算すると、150万人超の作業員が職を失うという見立てです。欧州の物流業界に相当のインパクトをもたらすことは間違いないでしょう。
※)ローランド・ベルガー「Of Robots and Men - in logistics」
もちろん、欧州以外の地域でも物流ロボットの活用は着実に進みます。ロボットメーカーからすれば、工場に次ぐターゲット市場が勃興しつつあるといっても過言ではないはずです。
さりながら、日本での物流ロボットの活用は、欧州や米国と比べて5年程度遅れています。それはひとえに物流に対する考え方が異なっているからです。
日本の荷主は、受付時間終了後であっても、所定の数量を超える出荷であっても、臨機応変に対応してくれる物流サービスを評価します。だからこそ、日本の物流会社の多くは、対応力の高さを売りにしようとします。物流センターの現場力を高めることによって、規定外の依頼にも柔軟に対応できるようになろうとするわけです。現場での創意工夫を期待できる、「勤勉な作業員」がいるからこそのなせるわざともいえるでしょう。
対して、欧米の荷主は、規定外の依頼に対応してくれることよりもコストの最小化を重視します。それゆえ、欧米の物流会社は、作業を標準化・定型化することで、オペレーション効率を最大化しようとします。仮に規定外の依頼を受けたとしても、断るか、別途費用を要求するだけのことです。
言わずもがなですが、ロボットは例外対応を苦手としています。標準的・定型的な作業であればあるほど、ロボットへの代替が容易となります。日本と欧米で、どちらの方が導入しやすいか、説明するまでもないでしょう。
特に、GTPのように、特定の作業をロボットに完全に置き換えるのであれば、もともとの労働生産性が低ければ低いほど、規定外の作業が少なければ少ないほど、導入効果は大きくなります。他方、AMRは「人とともに働くロボット」であるがゆえに、一緒に働く作業員の労働生産性が高ければ、ロボットの稼働効率も向上します。加えて、標準的・定型的な作業はロボットに、規定外の作業は人に、といった役割分担もしやすいです。
そう考えると、日本の物流センターには、AMRのような「人とともに働くロボット」が適しているのかもしれません。「勤勉な作業員」と「人とともに働くロボット」を組み合わせた、対応力と効率性の双方を兼ね備えた物流センターを構築できれば、日本の国際競争力も高まるはずです。
2030年までに、物流センターで働いている約4割の作業員はロボットに代替されるとの予測を紹介しましたが、逆にいえば、10年先の未来に至っても約6割の作業は人手で対応しているわけです。ロボットの活用範囲が拡大する中で、「人とともに働くロボット」の重要性は今後ますます高まっていくと考えるべきでしょう。
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