オカムラでオフィスIoT事業の立ち上げを推進するとともに、実証実験を行うpoint 0 marunouchiの取締役を務める遅野井氏は「現時点における、働く場所としてのオフィスの構築はさまざまな問題を抱えている」と指摘する。まず、企業のオフィス管理部門にとっては、新たにオフィスを構築しても、構築後の実態を継続的に把握する手段がない。把握しづらいが故に、オフィス構築を戦略的投資として捉えられない。そのオフィスで働くワーカーも、自らの手でより良く変えられるものとして主体的に捉える習慣がない。そして、オフィス家具を納入するオカムラにとっても、いったんオフィス家具を納入した後はその実態を把握できないので、次の提案が受動的かつ手探りになってしまう。
オカムラが開発を進めている「OKAMURA Office IoT Platform(仮)」は、これらの課題の解決に向け、オフィス内からさまざまなデータを取得してデジタルツインを構築しようというコンセプトがベースになっている。取得するデータとしては、ワーカーとオフィス家具の位置情報、オフィス家具の使用情報、温度や湿度といった空間環境情報などだ。これらのデータを分析し、家具、部屋、エリアの稼働率や占有率、フリーアドレス制を採用している場合にはワーカーの拡散率、ヒートマップなどとして活用する。
OKAMURA Office IoT Platformの導入により、オフィス管理部門はデータに基づくファシリティマネジメントが可能になって戦略的かつ積極的なオフィス投資が可能になり、ワーカーにもデータの見える化でオフィスを主体的に捉えて活用する姿勢が芽生える。オカムラは、収集したデータから顧客のオフィスの利用状況が分かるので、能動的で的確な提案を行えるようになる。「IoTオフィス家具から得られるワークログを蓄積して、最高のパフォーマンスを発揮できるオフィスに変えていくような提案もできるだろう」(遅野井氏)。
さらには、OKAMURA Office IoT PlatformによりオフィスがAPIとなり、オフィスに必須の設備である空調や照明、複合機などのIoTプラットフォームや、ビルインフラシステム、会議やドキュメントの管理などのソリューション、マイクロソフトの「Office 365」などと連携すれば、より良い“ワークプレイス”を実現できるようになるわけだ。
遅野井氏は「サービス提供時のビジネスモデルなどについては検討中だが、まずはタスクシーティング用のいすからIoT化を始める。2021年のサービス開始から対応製品を順次拡大し、2025年には全ての新製品がIoT化されているようにしたい」としている。
日本マイクロソフトの菖蒲谷氏は「世界全体で見れば、コネクテッドデバイスが1時間に100万台増えているといわれている。つまり年間約90億台増えていることになるが、それだけ多くのデータも生成されている」と説明する。
この拡大するIoT市場に対して、マイクロソフトは2018年に50億米ドルの投資を発表しており、1年後の2019年には100以上のIoT関連サービスを投入している。そして、IoT関連のパートナー企業数はグローバルで1万社以上を数える。
マイクロソフトはクラウドのAzureのみならず、データを生成するエッジ側のIoTを活用するためのソリューション開発にも注力している。同社がそれぞれを「インテリジェントクラウド」「インテリジェントエッジ」と捉える中で、「これらをどのようにつなげていくかが重要だ」(菖蒲谷氏)という。
なお、マイクロソフトはさまざまな企業とIoT活用に向けた取り組みを展開しているが、オフィス家具分野でも米国大手のスチールケース(Steelcase)との協業事例がある。ただし、オフィス家具全般にわたってのIoT化を進めるとともにプラットフォーム構築をも視野に入れたオカムラの取り組みは、より大規模なものと言えそうだ。
菖蒲谷氏は、「一人のオフィスワーカーとしても、オフィスIoTの展開の広さを含めて大きな期待を抱いている。これからもしっかりと支援していきたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.