1μm以下の「糸」が織りなす極薄膜が化粧品に、医療展開も視野材料技術

花王は2019年11月1日、同社が開発している積層型極薄膜形成技術「Fine Fiber Technology(ファインファイバーテクノロジー)」の事業化を開始すると発表した。同技術を初めて応用する製品は化粧品(スキンケア)領域で、同年12月4日より国内市場から展開を始める。

» 2019年11月05日 11時00分 公開
[松本貴志MONOist]

 花王は2019年11月1日、同社が開発している積層型極薄膜形成技術「Fine Fiber Technology(ファインファイバーテクノロジー)」の事業化を開始すると発表した。同技術を初めて応用する製品は化粧品(スキンケア)領域で、同年12月4日より国内市場から展開を始める。

積層型極薄膜形成技術「Fine Fiber Technology」を応用した化粧品を、花王の「est(エスト)」、カネボウ化粧品の「SENSAI(センサイ)」ブランドから発売する(クリックで拡大)

 花王が開発を進めるファインファイバーテクノロジーは、直径1μm以下の繊維を吐出、積層することで極薄膜を生成する。正に帯電させた紡糸液(ポリマー溶液)を負に帯電した対象表面に噴射し、紡糸液を繊維化する「エレクトロスピニング法」を用いる。同技術で成膜した繊維膜は皮膚に近い性状が得られることが分かっており、化粧品や医療領域などでの応用を進めている。

 同技術で成膜した積層型極薄膜は肌と膜の段差が極めて少なく、身体の3次元形状に対応するため皮膚の動きにも追従するという特徴がある。また、肌になじむことで皮膚の凹凸を見えにくくする効果や、高い毛管力による併用製剤の拡散、保持効果に優れる。さらに、繊維集合体であるため高い通気性も有しているという。

左:ファインファイバーテクノロジーの原理 右:積層型極薄膜の特徴(クリックで拡大) 出典:花王
花王の澤田道隆氏

 花王は「15年近くかけて実用化を進めてきた」(花王社長の澤田道隆氏)ファインファイバーテクノロジーをスキンケア製品から事業化する。紡糸液を吐出、成膜する小型ディフューザーはナノイーなど微粒子の噴霧技術を持つパナソニック アプライアンス社との協業により開発したもので、約4年の開発期間を要した。

 ファインファイバーテクノロジーの研究初期では、成膜装置が大人の背丈を超えるサイズとなっており、化粧品として製品化するにはディフューザーの小型化と吐出量の安定化が急務だった。パナソニック アプライアンス社 社長の品田正弘氏は「使い勝手と小型化の両立が最も大変だった。内部の部品配置を徹底的に見直した」と語る。特に、化粧液をディフューザーに供給するギアポンプの開発では、同社製シェーバーにも生かされている精密金型技術を用いて試作金型を何度も作り、試行錯誤を進めたという。

開発当初の成膜装置(クリックで拡大) 出典:花王
花王とパナソニックが共同開発したファインファイバーテクノロジー用ディフューザー(クリックで拡大) 出典:パナソニック

 花王はファインファイバーテクノロジーをスキンケア領域の他、メイクアップやボディケア、アートメイク領域にも活用範囲を広げる方針だ。また、医療用途での展開も目指すとし、ケミカルピーリングやレーザー治療ケア、損傷を伴う皮膚疾患に対しての治療などでの応用を見込む。同技術の事業規模について、澤田氏は「グループ全体で1000億円規模を達成できれば」との考えを示した。

化粧品「est バイオミメシス ヴェール」の使用イメージ。通常の就寝前スキンケアの後に、専用美容液を肌に塗り、ディフューザーへポーションをセットし肌に極細繊維を吹き付ける。肌上に形成された極薄膜がなじんで透明になり、就寝中にも長時間密着することで肌に潤いを与えるという

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