大阪大学は、細菌の多剤耐性化に関与するRND型薬剤排出ポンプを解析し、インフルエンザ菌のRND型薬剤排出ポンプによって、多剤耐性化が引き起こされる潜在的リスクを解明した。
大阪大学は2019年9月13日、細菌の多剤(複数の抗菌薬)耐性化に関与するRND型薬剤排出ポンプを解析し、インフルエンザ菌のRND型薬剤排出ポンプによって多剤耐性化が引き起こされる潜在的リスクを解明したと発表した。この研究成果は、同大学産業科学研究所 教授の西野邦彦氏らの研究グループによるものだ。
RND型排出ポンプは、多剤を細菌の中から外に排出する多剤排出ポンプのうちの1つだ。細菌多剤耐性化に深く関与しているが、ポンプが複数の抗菌薬を排出する能力については、古くから備わっているのか、進化的に獲得されたものなのか明らかになっていなかった。
今回、研究グループは、RND型薬剤排出ポンプ数百種類を解析し、ポンプの遺伝的進化を解明した。インフルエンザ菌の多剤排出ポンプAcrB(AcrB-Hi)と、新しいポンプである大腸菌AcrB(AcrB-Ec)との機能を比較して解析したところ、AcrB-Hiは、AcrB-Ecから系統的に離れているが、インフルエンザ菌b型(Hib)感染症治療に用いられるβ-ラクタム系抗菌薬を含めて、AcrB-Ecと同様に幅広い薬剤を排出する能力を持つことが実験で証明された。これにより、RND型ポンプの多剤排出能力は、古くから備わっていたことが示された。
また、進化したAcrB-Ecが阻害剤によって機能を抑制されるのに対し、AcrB-Hiは抑制されないことが分かった。さらに、AcrB-HiはAcrB-Ecよりも胆汁酸排出能力が低いことから、大腸菌が生息する胆汁酸塩が富んだ環境に適合するためにポンプが適応したと考えられる。
次に、AcrB-Hiが、β-ラクタム系抗菌薬の多くを効率的に排出するにもかかわらず、この薬が治療に効く理由を調べた。その結果、外膜タンパク質OmpP2がインフルエンザ菌に存在するためだと判明した。OmpP2は口径が広いので、β-ラクタム系抗菌薬がより効率的にインフルエンザ菌の中に流入し、AcrB-Hiポンプによる能動的排出を相殺していた。
将来的にAcrB-Hiポンプの過剰発現や、外膜タンパク質OmpP2の変異あるいは発現低下が起こると、AcrB-Hiが、現在は効果があるβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を持つ可能性がある。こうした潜在的リスクの発見は、新規抗菌薬の開発や多剤耐性細菌の克服に貢献する。
また、今回の数百種類にも及ぶ排出ポンプの系統解析は、他の細菌や生物に存在する排出ポンプの機能や分類予測にも役立つ知見となる。
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