九州大学は、脂質膜の境界を持ち、エネルギーのやり取りをしながら自律的に遺伝子発現するバイオリアクター「オンチップ膜融合型人工細胞」をミネソタ大学と共同で開発した。
九州大学は2019年7月18日、脂質膜の境界を持ち、エネルギーのやり取りをしながら自律的に遺伝子発現するバイオリアクター「オンチップ膜融合型人工細胞 On-chip membrane-bound artificial cell」を開発したと発表した。同大学大学院理学研究院 准教授の前多裕介氏らの研究グループが、ミネソタ大学と共同で開発した。
研究では、直径25μmサイズのマイクロウェルを平面脂質膜でシールし、無細胞転写翻訳の遺伝子発現を行うマイクロ流体デバイスを構築。5000個の独立した人工細胞が集積したデバイスだ。ここにplasmid DNA、もしくはゲノムDNAを含む抽出液を第1水相として封入し、脂質を含む液層を流した後にエネルギー源となる化合物を含む第2水相を流すことで、脂質膜に囲まれる人工細胞を多数デバイス上に構築した。
タンパク質量の時間経過を計測したところ、24時間以上にわたり安定して遺伝子発現し、平均濃度1mg/mlという高いタンパク質合成能力を示した。高濃度のタンパク質合成の遺伝子発現能力には、エネルギー供給のバランスを担う脂質膜の界面が不可欠であることが明らかになった。
さらに、それぞれの人工細胞が合成したタンパク質量を全て計測したところ、無細胞抽出液の量は全ての人工細胞でほぼ一定であるにもかかわらず合成タンパク質量には大きなばらつきがあった。このことから、均一な転写翻訳の反応系でも遺伝子発現量に大きなゆらぎがあることが明らかとなった。
近年、現実の細胞を模倣しながら、できる限り単純な反応系で動作するバイオリアクターの合成生物学の研究が進んでいる。しかし、従来のバイオリアクターはサイズや形状を厳密に制御できない、大規模な解析や測定が困難、脂質膜を介した物質輸送が起こらずエネルギー供給が断たれるという問題があった。
今回構築したオンチップ膜融合型人工細胞は、人工複製する細胞の設計原理の理解に役立つとしている。さらに、転写翻訳系や膜機能を阻害する抗生物質の探索などへの応用が期待できるという。
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