他方、「ユーザー向け医療機器サイバーセキュリティ情報第1版」は、患者・消費者、保健・医療専門家、小規模事業者、大規模サービス供給者を対象として、表3のような構成内容となっている。
ユーザー向けガイダンスでも、医療機器基本原則(EP)やNISTサイバーセキュリティフレームワーク1.1版に準拠したリスクマネジメント戦略を採っている点は同じである。
そして、患者・消費者向けガイダンスでは、ACSCが消費者・小規模事業者向けに策定した「ステイ・スマート・オンライン」(関連情報)の主要項目を参照している。
小規模事業者向けガイダンスでは、同じくACSCが策定した「エッセンシャル・エイト成熟度モデル」より、以下の8項目を参照している。
【マルウェアの配布および実行を予防する低減戦略】
【サイバーセキュリティ・インシデントの範囲を抑制する低減戦略】
【データおよびシステムの可用性を回復する低減戦略】
コンパクトにセキュリティ要求事項が整理されたエッセンシャル・エイトは、要員や予算に限界があるスタートアップ企業にとって参考になる点が多い。
また、大規模サービス供給者向けガイダンスでは、サービス供給者に適用される標準規格として、以下の4つおよびNISTサイバーセキュリティフレームワーク1.1版を挙げている。
さらに、サイバーセキュリティ・インテリジェンスと脅威の共有では、業界向けガイダンスと同様に、ACSCやAusCERTとの連携を挙げている。
なおTGAは、2019年2月13日、「コンサルテーション:ソフトウェア・アズ・ア・メディカルデバイス(SaMD)を含むソフトウェアの規制」(関連情報)を公表し、パブリックコメントを募集している(受付期間:2019年3月31日)。ここでいうSaMDには、人工知能(AI)や機械学習(ML)を利用したアルゴリズムに依存するソフトウェアも含まれている。
SaMDは、今回TGAが公表した医療機器サイバーセキュリティガイドラインの対象として明記されており、AI/機械学習を利用したSaMDについても、トータル製品ライフサイクルのアプローチに基づいて、サイバーセキュリティ要件を検討することになる。
本連載第43回)で取り上げたように、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の医療機器サイバーセキュリティ作業部会では、米国とカナダがリード役を担っている。また、米国、カナダ、オーストラリア、日本は、国際規制調和策の一環として、第三者調査機関を使った単一調査実現を目的とする「医療機器単一調査プログラム(MDSAP)」に参画している。
他方、人工知能(AI)に関わる国際ルールづくりでは、第46回で取り上げたように、2018年G7サミット議長国を務めたカナダ政府と、2019年のG7サミット議長国を務めるフランス政府が連携している。
2019年8月24日〜26日のG7ビアリッツサミット開催を控え、今後、医療機器サイバーセキュリティやMaSD、AIを巡る国際協調が加速するか否か注目される。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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