IoTデバイスのセキュリティやプライバシー対策に不可欠なのが、端末で稼働するアプリケーションのセキュリティだ。NISTは、2019年4月19日、「NIST SP 800-163 Revision 1:モバイルアプリケーションのセキュリティ審査」(関連情報)と題するガイドラインを公表している。
このガイドラインは、モバイルデバイス上に実装するソフトウェア保証の改善を求める官民双方の組織を対象としており、モバイル医療ソフトウェアのセキュリティに関する品質保証などに適用可能な内容となっている。
図3は、本ガイドラインで取扱うモバイルアプリケーション・ライフサイクルにおけるソフトウェア保証プロセスを示しており、(1)開発者によるアプリケーション開発のフェーズ、(2)開発されたアプリケーションを受け取り、エンドユーザー組織が導入する前のフェーズ、(3)エンドユーザー組織によるアプリケーション導入のフェーズに大別される。
そして、本ガイドラインは、以下のような構成になっている。
その中で、アプリケーションセキュリティの一般的な要求事項として、以下のような既存文書を参照している。
図4は、本ガイドラインに適用されるリスクマネジメントフレームワークを示しており、「準備」「システムのカテゴリー分け」「コントロールの選択」「コントロールの導入」「コントロールの評価」「システムの承認」「コントロールのモニタリング」の7つのステップから構成される。
なお、リスクの許容度については、以下のような要因を考慮すべきだとしている。
NISTは、これらのフレームワークやレファレンスを活用しながら、モバイルアプリケーションのライフサイクルを構成する個々のプロセスについて、アプリケーションセキュリティ審査を遂行すべきだとしている。
スマートフォンやモバイル機器をプラットフォームとする医療/デジタルヘルス向けアプリケーションでは、セキュリティ品質の要求水準をどのレベルに設定するかが、大きな課題となる。
他方、NISTは、2019年6月11日、「セキュアソフトウェア開発フレームワーク(SSDF)の採用によるソフトウェア脆弱性の低減草案」(関連情報)を公表し、パブリックコメントの募集を開始している(募集期間:2019年8月5日まで)。
同草案では、企業のビジネスオーナーやソフトウェア開発者、サイバーセキュリティ専門家向けに、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)モデルに加えて、セキュアソフトウェア開発フレームワーク(SSDF)を導入することを提唱している。
表2は、プラクティスの概要を示す「プラクティス」を軸に、プラクティスを遂行するために必要な「タスク」、プラクティス導入に利用可能なツール、プロセスおよびその他の手法の例を示す「導入事例」、既存のセキュア開発プラクティスに関する文書や特定のタスクにマッピングされたものをまとめた「レファレンス」を整理した表の例を示している。
NISTは、SSDFについて、開発現場で利用されるメカニズムやツールよりも、実際にプラクティスを導入・運用することに重点を置いている。
製造業では、これまでも超早期段階における安全品質の作り込みが叫ばれてきたが、ソフトウェア開発の現場でも、「セキュリティ・バイ・デザイン」や「プライバシー・バイ・デザイン」が大きなテーマとなっている。とはいえ、IoTデバイスに要求されるセキュリティ/プライバシー要件について、どのレベルまでやればいいのか明確な基準はないのが実情だ。NISTのガイドライン類を有効活用するためには、製品や組織の枠を超えたナレッジ・ノウハウの共有が必要である。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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