米国での国立標準技術研究所(NIST)がモバイル型電子カルテのセキュリティガイドラインを公表した。多層防御戦略を前提としており、これに合わせた医療機器の開発も必要になってくる。
米国で、技術標準化の視点から、医療セキュリティ関連指針の整備を行っている国立標準技術研究所(NIST)が、モバイル型電子カルテのセキュリティガイドラインを公表した。
2018年7月27日、NIST傘下の国立サイバーセキュリティセンターオブエクセレンス(NCCoE)は、「SP 1800-1:モバイルデバイス上の電子健康記録のセキュア化」と題するガイドライン最終版を公表した(関連情報)。このガイドラインは、オバマ政権時代の2012年3月、保健福祉省(HHS)の国家医療 IT 調整室(ONC)と公民権室(OCR)が開催したモバイルデバイスラウンドテーブル(関連情報)を契機に策定作業が始まったものであり、モバイルデバイス上で収集、保存、処理、転送する医療情報のセキュリティを強化するために利用可能なツールを示すことを目的としている。
NCCoEは、ユースケースに基づくシミュレーションを実施した上で、本連載第35回で取り上げた「NISTサイバーセキュリティフレームワーク1.1版」「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)セキュリティ規則」など、参照する標準規格やベストプラクティスとの関係を整理している。ガイドラインは、以下のような5分冊構成になっている。
図1は、「NIST SP 1800-1B:アプローチ、アーキテクチャ、セキュリティの機能」の中で想定するユースケースより、モバイルデバイス間の電子健康記録(EHR)転送時に求められるセキュリティ要件を示したものである。ユースケースのシナリオでは、医師がモバイルデバイスを利用して、他の医師に患者を紹介したり、電子処方箋を発行したりする。患者紹介プロセスでは、医師が、モバイルデバイスから無線ネットワーク経由でEHRシステムにアクセスし、他の医師のモバイルデバイスに無線ネットワーク経由で患者紹介情報を転送するフローを示す一方、認証プロセスでは、医師から他の医師への転送に関する認証の承認フローを示している。
このガイドラインでは、EHRシステム、モバイルデバイス、患者情報のセキュリティ対策を行うために、多層防御戦略の考え方を導入している。図2は、そのために、ユースケースから策定した包括的なアーキテクチャを示しており、極力シンプルな構造とすることによって、課題に関する議論を活発化させるとともに、セキュリティ製品のベンダーがソリューションに参画できる機会を提供することを狙っている。
これらのユースケースやアーキテクチャを基に、ガイドラインでは、EHRシステム、モバイルデバイス、患者情報の保護で求められるセキュリティ要件として、以下のような項目を挙げている。
表1は、上述のセキュリティ要件とNISTサイバーセキュリティフレームワークおよびHIPAAの要求事項との関係を整理したものである。より詳細なレベルの要件については、「NIST SP 1800-1D:標準規格とコントロールのマッピング」で概説している。
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