今回のガイドラインは、モバイルデバイス経由でアクセス可能なデジタルヘルス介入にフォーカスしており、具体的には、以下のような対象領域を掲げている。
なおWHOは、デジタルヘルス介入ガイドライン策定に先立って、以下のようなデジタルヘルスに関わる評価・計画支援ツール、モニタリング・評価支援ツールなどを開発、提供している。
そして表1は、前述の対象領域10項目に対するWHOガイドラインの推奨事項をまとめたものである。
推奨事項 | |
---|---|
1 | WHOは、次のような状況下で、モバイルデバイスを経由した出生届の利用を推奨する ・届け出が個人レベルのデータを保健医療システムおよび/または住民登録・人口動態統計(CRVS)システムを提供する設定の場合 ・保健医療システムおよび/またはCRVSシステムが、届け出に対応する能力を有する場合 |
2 | WHOは、次のような状況下で、モバイルデバイスを経由した死亡届の利用を推奨する ・厳格な研究のコンテキストにおける場合 ・届け出が個人レベルのデータを保健医療システムおよび/または住民登録・人口動態統計(CRVS)システムを提供する設定の場合 ・保健医療システムおよび/またはCRVSシステムが、届け出に対応する能力を有する場合 |
3 | WHOは、サプライチェーンマネジメントシステムが、タイムリーで適切な方法で、届け出に対応する能力を有する場合、モバイルデバイスを経由した在庫届と物資管理の利用を推奨する |
4 | WHOは、次のような状況下で、患者/個人ー医療機関間の遠隔医療を推奨する ・対面の保健医療サービスの提供を置き換えるよりもむしろ補充する状況の場合 ・患者の安全、プライバシー、トレーサビリティー、責任、セキュリティがモニターできる設定の場合 |
5 | WHOは、患者の安全、プライバシー、トレーサビリティー、責任、セキュリティがモニターできる設定の場合、医療機関同士の遠隔医療を推奨する |
6 | WHOは、機微なコンテンツやデータプライバシーへの懸念が適切に処理される状況の場合、性、生殖、妊娠、新生児、子どもの保健医療に関する行動変容のための、モバイルデバイスを経由した患者/個人向けコミュニケーションを推奨する |
7 | WHOは、保健ワーカーのための実務の範囲内ですでに定義されているタスクのコンテキストにおいて、モバイルデバイスを経由した保健ワーカーの意思決定支援の利用を推奨する |
8 | WHOは、次のような状況下で、意思決定支援機能付きデジタルトラッキングの利用を推奨する ・保健医療システムが、統合された手法により介入コンポーネントの展開を支援できる設定の場合 ・保健ワーカーのための実務の範囲内ですでに定義されているタスクのため |
9 | WHOは、次のような状況下で、意思決定支援と患者/個人向けコミュニケーションを組み合わせたデジタルトラッキングの利用を推奨する ・保健医療システムが、統合された手法により介入コンポーネントの展開を支援できる設定の場合 ・保健ワーカーのための実務の範囲内ですでに定義されているタスクのため ・データプライバシーや機微なコンテンツの患者/個人への転送に関する潜在的懸念が処理できる場合 |
10 | WHOは、継続的な保健教育および稼働中のトレーニングの提供に関する伝統的手法を置き換えるよりもむしろ補充する状況の場合、モバイルデバイス/モバイルラーニングを経由した保健ワーカー向けトレーニングおよび教育コンテンツのデジタル提供を推奨する |
表1 デジタルヘルス介入に関する推奨事項 出典:World Health Organization「WHO Guideline: recommendations on digital interventions for health system strengthening」(2019年4月17日)に基づき、ヘルスケアクラウド研究会が作成 |
各領域とも、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に代表される保健医療制度の仕組みづくりや、ブロードバンドインターネットに代表されるICTインフラ構築が発展途上段階にある新興国市場を想定した推奨事項が示されている。
これらのデジタルヘルス領域は個々に独立して存在するのではなく、相互に連携し合った保健医療エコシステムを形成する。図5は、保健医療システム全体から俯瞰したデジタルヘルス介入に関わる推奨事項の関係性を示したものである。
デジタルヘルスに関わるハードウェアやソフトウェア、サービスを開発、提供する企業にとっては、各国や地域の保健医療エコシステムに組み込むことが可能な技術機能およびビジネスモデルが欠かせない。特にゼロベースからスタートするケースが多い新興国市場においては、保健医療システムの全体最適化を効率的に進めるために、図4で示されたデジタルヘルス介入のコンポーネントが、標準化されて相互運用性が担保されたビルディングブロックとなっている方が望ましい。
デジタルヘルスに関わる相互運用性やエビデンス/評価、セキュリティの国際標準化などについては、本連載第34回で取り上げた「グローバル・デジタルヘルス・パートナーシップ(GDHP)」(関連情報)が、2019年4月3日、5つのホワイトペーパーを公表している(関連情報)。
これに対して、急速な少子高齢化が進む課題先進国・日本のデジタルヘルス関連ベンダー/サービスプロバイダーは、どんなビルディングブロックを世界に提供できるのかが注目される。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
Twitter:https://twitter.com/esasahara
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara
Facebook:https://www.facebook.com/esasahara
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.