東京大学は、脳情報動態の多色HiFi記録を可能にする超高感度カルシウムセンサーの開発に成功したと発表した。自閉症などの精神疾患や、てんかんなど神経疾患の病態解明につながることが期待される。
東京大学は2019年5月10日、脳情報動態の多色HiFi記録を可能にする超高感度カルシウムセンサーの開発に成功したと発表した。本研究は、同大学大学院医学系研究科 特任助教の井上昌俊氏が、山梨大学と共同で行ったものだ。
研究では、カルシウム(Ca2+)が神経発火に伴い細胞内に流入することを生かした蛍光Ca2+センサー(GECI)を基に、超高感度かつ超高速Ca2+センサーの青、緑、黄、赤色の「XCaMP」シリーズを開発。これにより、生きた哺乳類脳の神経発火活動、シナプス活動を計測でき、マウス生体内で高頻度発火神経細胞の発火パターンの読み取りや3種の異なる細胞種の多重計測に成功した。
研究グループは、GECIの線形性の改善に注目し、神経細胞由来タンパク質CaMKKのCaM結合配列を参考にした新規配列を設計して挿入。加えて、複数個所に変異を導入し、Ca2+応答が最速のXCaMP-Gf、および単一の活動電位に伴うCa2+応答が最大のダイナミックレンジを持つXCaMP-Gを開発した。
さらに、多色化変異を試み、青色のXCaMP-B、黄色のXCaMP-Y、赤色のXCaMP-Rを創出。Hill係数(Ca2+と蛍光強度変化の協同性を示す指標)がおよそ1付近の値をとり、生体内Ca2+計測に有効な線形GECIシリーズ、XCaMPを作成した。
次に、Hill係数を1にした効果を確かめるため、マウス生体内大脳皮質興奮性錐体細胞において2光子イメージング法と電気生理法を同時に検証。その結果、全てのXCaMPセンサーが神経発火回数と蛍光強度の変化の間に強い線形の関係を有することを見出した。このセンサーをマウスに用い、パルアルブミン陽性細胞の発火パターンを従来のGECIよりも最も精度良く読み取れることを実証した。
また、青色GECIのXCaMP-Bを作成し、ファイバーフォトメトリー法を用いてマウス前頭前野における異なる3種類の神経細胞種のPV陽性細胞およびソマトスタチン陽性細胞の活動同時計測に成功。その結果、抑制性PV陽性細胞がSST陽性細胞に先行して活動し、その相前後に興奮性錐体細胞が活動するという各細胞種が時間的に制御されていることを突き止めた。
XCaMP-YとXCaMP-Rを用いて、生体内において興奮性細胞の樹状突起と抑制性細胞の軸索の同時計測に成功し、時空間的な軸索、樹状突起の制御も解明。最後に、XCaMP-Rが赤色と長波長シフトしているために光の組織内散乱が少ないことを利用し、非侵襲的に海馬CA1領域の錐体細胞神経活動の直接計測を行った。
今後は、複数細胞種の神経ダイナミクスの破綻により発症すると考えられる自閉症や統合失調症などの精神疾患の神経基盤の解明が期待される。また、Ca2+動態の異常が関連する循環器疾患、アレルギーなどの原因解明や創薬スクリーニングの精度向上も期待される。
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