「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第18回。岩手県による雇用構造改善のための取り組み「高付加価値型ものづくり技術振興雇用創造プロジェクト」を紹介する。
厚生労働省が2013年度から実施しているプロジェクトに「戦略産業雇用創造プロジェクト」がある。これは「雇用情勢などの厳しい地域において、雇用構造の改善に対応するため、地域の関係者の創意工夫を生かした雇用創出の取り組みを支援」するというもので、各都道府県が提案したプランのうち、産業政策と一体となった雇用創造効果の高いものが選ばれ、年間10億円を上限に最大3年間、実施費用の8割の補助を受けることができる。岩手県は「高付加価値型ものづくり技術振興雇用創造プロジェクト」を提案し、2016年度に採択された。
このプロジェクトの構想は、自動車・半導体・医療機器関連産業などのモノづくり戦略業種に共通する「基盤技術企業」に対し、付加価値の創造、サプライチェーンの拡大、設計開発力の強化、技術力の高度化の支援を行い、長期的かつ安定的な雇用の創出につなげるというもの。行政、産業支援機関、教育・研究機関が連携して取り組んでいる。
支援策はこうだ。まず県は、事業計画や進ちょく、成果と課題を協議し情報を共有する「高付加価値型ものづくり促進協議会」、事業主の雇用拡大や求職者の人材育成に資する専門家の確保、求職者向け工場見学交流会、企業が雇い入れた人材の育成といった支援を実施。いわて産業振興センターや釜石・大槌地域産業育成センターは、事業の創出や技術の高度化、マッチングなどを、また教育研究機関・各研修機関も人材育成支援、高度技術研修を提供するほか、岩手大学では産学協同実用化研究を受託している。
例えば2016年度、いわて産業振興センターでは、2社以上の県内モノづくり企業による、事業化が近い案件の試作や評価にかかる費用を助成する「コンソーシアム型事業創出支援事業」(4テーマを採択)、「CEATEC JAPAN」や「ネプコンジャパン」への共同出展、ISOなどの認証取得のためのセミナーや助成などを行なっている。
岩手県の面積は1万5275平方キロメートルで、これは東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県を合わせた面積より広いのだそうだ。広いだけに、自然、文学、歴史など見どころは多い。一部を紹介すると、内陸には「南部片富士」と呼ばれる美しい岩手山、スキーや高山植物、温泉などが楽しめる八幡平、「銀河鉄道の夜」などで知られる宮沢賢治のふるさと花巻、「遠野物語」で有名な遠野、世界遺産に登録された平泉。三陸海岸には、断崖やリアス式海岸をはじめとする唯一無二の景観がある。
食べ物で筆頭に挙げられるのは、黒潮と親潮、流れ込む川のおかげでプランクトンもミネラルも豊富な、三陸沖の海産物だろう。しかし県のホームページに公開されている産業構造によると、水産業の就業者数は、全体の1%にすぎない。最も就業者数が多いのはサービス業の24.4%、次いで卸売・小売業の15.0%。製造業の就業者数は全体の14.1%である。
岩手県がこのプロジェクトに取り組む背景として挙げたことの一つは「有効求人倍率は回復しているものの、長期安定的とは言えない復興需要による求人が倍率を高めており、近い将来反動による減少が危惧されている」ということ。東日本大震災津波からの復興状況を定期的に把握する目的で、県が6カ月に一度実施している復興感に関する調査「いわて復興ウォッチャー調査」(2019年1月実施)でも、地域経済の回復感は「回復」「やや回復」が57.8%ではあるものの、「復興工事終了後の建設需要減退に対する不安の声もあった」と報告されている。
いわて自動車関連産業集積促進協議会、いわて半導体産業集積促進協議会、いわて医療機器事業化研究会とも連携しながら進められているこのプロジェクトは、2018年度末(2019年3月)までの予定。このプロジェクトを促進剤に、基盤技術が底上げされ、企業が力を付け、長期的かつ安定的に雇用が創出される状態になることを目指している。
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