「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第16回。群馬県のイノベーション機運を高めようと、毎年開催されている「群馬イノベーションアワード」を紹介する。
群馬イノベーションアワード(GIA)は、「次代を担う起業家や起業家精神を持った人材を発掘し、県内国内のイノベーション機運を高めよう」というプロジェクト。上毛新聞社主催、メガネブランド「JINS」のジェイアイエヌ創業者が立ち上げた「田中仁財団」の共催で、2013年から開催されており、後援には経済産業省関東経済産業局、財務省前橋財務事務所、群馬県をはじめ、地方自治体や商工会、商工会議所などが名を連ねる。協賛社も年々広がり、事業化を支援する動きも活発化している。
募集部門は、これから起業を目指す人のビジネスプラン、または第2創業のプランを募集する「ビジネスプラン部門」(高校生の部、大学生・専門学校生の部、一般の部)、創業から5年未満の起業家を対象に、新製品やサービス、生産や流通など革新的なプロセスの開発により、発展している事業の実例を募集する「スタートアップ部門」、同様に発展している事業の実例を、創業5年以上の事業者を対象に募集する「イノベーション部門」。エントリー数は年を追うごとに増加し、5回目となった2017年の応募数は185件となった。
2017年のイノベーション部門で入賞した「IoT樹木鉢」は、水分や温度などを検知するIoTセンサー付きに植木鉢を遠隔管理し、季節ごとに多品種の樹木をシェアするサービス。開発したのは、日本一暑いといわれる館林市で、1928年(昭和3年)に創業した文具店の3代目社長。「緑化を推進して温度上昇を抑え、季節ごとの花々で心も癒やされる」として考えたプランで、2017年12月から館林市内で実証実験が始まっている。
2016年にスタートアップ部門で入賞した「ICTリハ」は、介護が必要になっても状態が改善する人がいることから、ビッグデータとAI(人工知能)を活用して、それぞれの人に最適なリハビリを提案するという仕組み。経済産業省の「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業」にも採択され、介護状態や認知機能の改善に一定の効果が実証されている。
2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産登録された群馬県。農家の副業的に女性の職場として発展した養蚕業は、働き者の女性「かかあ天下」を育てた。
群馬県は、歴史的にモノづくりも盛んで、例えばかつて世界に誇る技術力を持っていた航空機メーカー中島飛行機は、水平対向エンジンを開発した富士重工業、「はやぶさ」の回収カプセルを開発したIHIエアロスペースの原点である。
夏の暑さや雷、冬のからっ風は比較的知られるところだが、実は群馬県は地盤が固く、大規模な自然災害も少ない。義理人情に厚く、真面目で、チャレンジ精神旺盛といわれる気質も、気候や風土によって培われたものだろう。優れた起業家を多く輩出している群馬県には、イノベーション気質が受け継がれているのかもしれない。
本州のほぼ中央に位置し、東西に、太平洋側と日本海側に、高速交通網(関越道、上信越道、北関東道、東北道、上越新幹線、北陸新幹線)が走っているのも強み。県ではその利点を生かし、高速交通網を補い、県内各地を結ぶ7つの交通軸を整備している。住民の利便性はもちろん、今後の産業の活性化にも寄与することになるだろう。
GIAの関連事業として、社会人と学生を対象に「群馬イノベーションスクール」(GIS)も開講されている。「時代をブレイクスルーするような新しい技術、サービスのイノベーションに挑戦する起業家や事業継承者を数多く輩出できる、21世紀の寺子屋」を目指し、毎年4月から翌年1月まで、月1回開講されており、2018年度の募集で5期生となる。
GIA入賞者には、特典として「GIA起業家と行く米国シリコンバレー研修ツアー」に参加できる他、このGISへの参加資格、県内の起業家や各界のキーマンによる交流会「群馬イノベーション会議」のメンバー資格を得ることができる。
GIAの合言葉は「ジャパニーズドリームを、群馬から」。この言葉には「イノベーターにとってチャンスにあふれた地であり続ける」という思いが込められている。GIAはコンペであると同時に、芽を育て、国内外からの刺激も受け、切磋琢磨し、人的ネットワークを作るといった、アイデアやチャンスをビジネスにつなげるための大きなモチベーション、サポートの仕組みとして機能し、群馬県にイノベーションの流れを作っている。
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