「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

自動車が目新しくない「CES 2018」は「ビジョン」から「ビジネス」の段階へ次世代モビリティの行方(1)(1/3 ページ)

これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、「CES」や「Mobile World Congress」などの海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。第1回は「CES 2018」の自動車関連の動向をレポートする。

» 2018年02月22日 10時00分 公開

 2018年1月9〜12日の4日間、米国ネバダ州ラスベガスで「CES 2018」が開催された。2012年以降、モーターショーの色が濃くなってきている同イベントにおいて、今回もクルマが注目されるのは容易に予想できた。CES参加前に筆者が想定した通り、車載システムの高度化や自動運転車の具現化など、技術進展によりこれまで未来の話として語られてきたことが急激に実用化に向けて動き始めた。

 しかし、筆者の印象からすると、2016年ごろを境に「CESのモーターショー化」もそろそろ落ち着きを見せ始めた印象だ。実際に、CESへの出展を取りやめている自動車メーカーも出てきている。

 また、これまでCESの特定エリアのみを走行していた自動運転車だったが、今回はリフト(Lyft)やトーク・ロボティクス(Torc Robotics)の自動運転車がラスベガスの街を走行する姿を何度も目撃した。そういった意味では、目の肥えた参加者(あるいはMONOistの読者)であれば、目新しいと感じるものが少なくなってきたという感じを持つかもしれない。

 ただし、これは自動車分野が盛り下がっているということを意味しない。CESは自動車メーカーよりもティア1サプライヤーやSIヤーなど、自動車ビジネスに関連するプレーヤーの存在感が増しているからだ。

 未来のビジョンを見せるショーケースは一定の役割を終え、より現実的なビジネスのフェーズに入った印象である。そのような状況下でのCESの自動車を巡る動向についてレポートしたい。

連日ラスベガスの街中を走っていた自動運転車(Torc Robotics) 連日ラスベガスの街中を走っていた自動運転車(Torc Robotics)(クリックで拡大)

「CES 2018」で自動車メーカーが示したインパクト

 先述の通り、CESにおける自動車メーカーの位置付けが変わり始めているとはいえ、その存在感が大きいことには変わりない。ただし、その方向性はこれまでとは異なる。

トヨタがモビリティカンパニーへの変革を宣言

 CES 2018で最も印象に残ったことの1つが、トヨタ自動車の発表だった。開幕前日の2018年1月8日に開催されたプレスカンファレンスに同社社長の豊田章男氏が登壇し、自らの言葉で「トヨタはモビリティカンパニーへと変革する」と語った。

 そして公開されたのが「e-Palette」という新しいコンセプトだ。e-Paletteは自動運転技術を活用した次世代EV(電気自動車)で、モビリティサービスに特化した活用を想定している。さまざまな用途に応じた車両のカスタマイズが可能で、例えば通勤時間帯はライドシェア、日中は出張販売、といった活用が可能だ。初期パートナーとしてアマゾン(Amazon)や滴滴出行(Didi)、ピザハットなどが挙げられた。

 欧米自動車メーカー各社がモビリティサービスに注力する中、かたくなに自動車メーカーであり続けたトヨタ自動車が、モビリティカンパニーへの変革を宣言したことは、「100年に1度」といわれる自動車業界の大変革を象徴する出来事といえる。

 2016年に「Auto Company(自動車会社)」から「Mobility Company(移動サービス会社)」に転換することを宣言したフォード(Ford Motor)から遅れること2年、トヨタ自動車がついに、モビリティサービス市場におけるポジショニングを追求する動きに出たということだ。

豊田章男氏と「e-Palette」 モビリティカンパニーへの移行を宣言するトヨタ自動車 社長の豊田章男氏とモビリティサービス向けEV「e-Palette」(クリックで拡大)

中国のEVスタートアップ・バイトンへの期待

 CES 2018以前にバイトン(BYTON)の存在を知っていた人は少ないのではないかと思う。バイトンは、元BMW幹部が設立した中国のスタートアップで、テスラ(Tesla)の対抗馬となるEVを製造している。CES 2018のプレスカンファレンスで発表されたコンセプトカーを見て、あまりにも洗練されたデザインにどよめきが起こった。

 同社のコンセプトカーの大きな特徴としては、ダッシュボード全面に横長スクリーンを配置している他、業界初となるステアリング中心部のタッチスクリーン搭載などがある。顔認識によるパーソナライズ化やダッシュボードのジェスチャーコントロール、自動運転レベル3の機能などの搭載に加え、アマゾンの音声認識AI(人工知能)「Alexa」との連動も可能だ。

 これまで、コネクテッドカーや自動運転車に搭載されるといわれてきたありとあらゆる技術を搭載するこのクルマは、2019年から4万5000米ドルのモデルとして発売される予定である。また、2018年2月5日には、自動運転技術のオーロラ(Aurora)との提携を発表し、レベル4/5の自動運転車の市場投入を加速させるとしている。

 なかなか「モデル3」の量産が立ち上がらないテスラに加え、2017年のCESで華々しいデビューを飾った米国のファラデー・フューチャー(Faraday Future)や中国の楽視(LeEco)が資金繰りに悩むなど新たなEVメーカーがなかなか軌道に乗れずにいる。そんな中、バイトンが自動車メーカーとしての立ち上げに成功できるのかに注目が集まる。

バイトンのコンセプトカー 洗練されたデザインのバイトンのコンセプトカーが登場するとシャッター音が鳴りやまなかった(クリックで拡大)

「運転」への原点回帰を追求したBMW

 BMWといえば毎年、CESにおいて先進的・革新的な取り組みを紹介する企業の1つとして注目を集めている。しかし、CES 2018でBMWが追求したのは原点回帰、つまり「運転」だった。

 例年のような、最先端技術を駆使した自動車やライフスタイルの変化に関する展示はなく、屋外展示エリアでは6台のBMW車によるドリフト走行試乗を展開し、展示会場周辺を爆音とタイヤの焦げる臭いで埋め尽くしていた。

 自動運転車やモビリティサービスが注目され、クルマが「移動」のための手段となりつつある中で、そもそも自動車の楽しみは何かを思い出させるこの取り組みは、IT技術とは無縁とはいえ、ひときわ目立っていたことは否定できない。その裏にあるのが、自動車メーカーとしての誇りなのか、あるいは何かを温存しているのか、次の一手が気になるところだ。

BMWのドリフト走行試乗の様子 BMWのドリフト走行試乗の様子。見事なドリフトを行ったドライバーには来場者から拍手喝采が沸き起こった(クリックで拡大)
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