想定しているのは、製造現場におけるマスカスタム生産(カスタム製品を大量生産の効率で作ること)の実現である。大量生産であれば、ロボットを活用する場合でも、部品に合わせて専用の固定治具などを製作し、位置精度を確保した上で、同じ動作を繰り返す設定を行うことで問題なかった。しかしマスカスタム生産のように常に変化し続ける生産現場の場合、作業の標準化が難しい他、作業者には複数のスキルが必要になる。
こうした状況を自動化するには、ロボットなど製造機械も人と同じように器用で柔軟でなければならない。そこで現在注目を集めているのが、協働ロボットとAGVを組み合せて、人と同じ環境で同じように移動しながら生産活動を行うような取り組みだ。しかし、常に位置やワークが変化し続ける中で、毎回ロボットの制御プログラムなどをティーチングするには大きな負担が発生していた。この課題を解決するために期待されているのが「器用に制御するAI」である。
特徴としてはロボット制御の知見と深層強化学習を組み合わせることで少ない計算資源でスムーズな制御を実現していることがある。三菱電機 情報技術総合研究所 知能情報処理技術部 部長の三嶋英俊氏は「インテル Core i7クラスのプロセッサに入るレベル」としている。加えて、対象物の形状が複雑であってもロボットを高精度にリアルタイム制御できるという。
AIにはディープラーニング機能とオンライントラジェクトリージェネレーター機能の2つの機能を搭載。オンライントラジェクトリージェネレーターは、ディープラーニングで推論した結果値に対し、その間を円滑につなぐための制御を自動的に行うというもの。滑らかな制御の一方で、計算量の軽量化も実現できるという。
デモでは、ロボットによるコネクターのはめ込み作業において、コネクター位置が変化してもリアルタイムで状況の変化に追従する様子を示した。ハンドに設置したカメラと力覚センサーにより、環境を認知し、コネクターの接続位置を動かしても自動で追従して接続できた。
今後残された課題としては「深層学習による学習でアルゴリズムを生成しているため、不規則で急激な変化には追従できない可能性は残されている。ただ、製造現場での環境に合わせて学習でき、ある程度の環境を整備できれば十分活用可能だと考えている。デモ用のロボットは約1日の学習期間で実現できた」(三嶋氏)と述べている。
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