同一作業方法を用いても作業者の働く意欲(作業意欲)、熟練度、適正、物理的作業条件などによって自ずと作業速度は異なってきます。そこで、各作業者の実際時間を標準と比べて、どれだけ速いか遅いかを明らかにする必要があります。これがレイティングです。レイティングには、“レベリング法”“速度評定法”“努力評定法”などがあります。つまり、特定の条件下にある現実の作業から得られる観測時間を、標準時間の定義に合うように標準時間に変換するための「係数」であるといえます。作業速度が、標準作業速度(スピード)に対してどのくらい速いか遅いかを評価して、例えば120%とか80%とかを格付けします。レイティングは、作業時間の観測者が正常な作業速度だと考える基準と比べて評価する方法ともいえます。
この方法を活用する場合は、観測者はもちろん、会社の全従業員が「標準作業速度」について正しい基準を持っていることが大切です。これらの基準は、人から説明を受けたり、書籍を読んだりすることによって得られるものではなく、その作業に対する深い知識と瞬間的に作業速度のレベル(水準)を評価できる“カン”を必要とします。これらは、経験によって醸成されていくことと考えます。従って、レイティングを行うためには、その前に標準作業速度の概念を観測者が体得しておかなければなりません。
このレイティングについては本連載『よくわかる「標準時間」のはなし』のシリーズの中であらためて詳しく説明したいと思います。
「標準作業速度」の1.〜4.の条件のもとにおいて、現在、多くの研究者や実務家によって支持され、世界的な基準(ワークファクター法)の速さとなっているものに次のものがあります。
これらの速度は、超人的能力や異常な努力を要求するものではなく、普通の人が普通の速度で働けば達成できる速さで、作業者の努力によっては、これ以上に速く作業を行うことは、それほど大きな苦労ではないことを、以上の2つの事例を参考にしながら試してみることで、自ら感じとって欲しいと思います。
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今回は、作業の標準速度について説明をしました。私たちは、生産現場で日常的に「何個の製品を何時間で生産する」とか、「何時間で何個の製品を生産できた」などのように、時間を基本として生産活動を計画し、その結果を評価します。このように生産現場では、いろいろな管理の基準として“時間”が用いられます。この基準値としての時間を「標準時間(ST;Standard Time)」といいます。
この標準時間は、過去の実績時間の平均値を用いたり、何らかの基準によって選出した人の実績値を用いたりするのではなく、「定められた条件下で、標準作業方法で作業した場合に期待される時間値」のことで、この作業速度を「標準作業速度」といいます。さらに、「標準作業速度」に対する実績時間の比率(「標準作業速度」に対して、実績時間がいくら速いとか、遅いとか)を“作業能率”といいます。このあたりの考え方を整理し、区別しておく意味で「標準作業速度」について説明しました。
次回は、標準時間を設定する上で、「標準作業速度」と同様に重要なポイントでもある「余裕時間」について説明したいと思います。
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MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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