「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第4回。富士山麓に広がる静岡県東部で進めている医療健康産業クラスター「ファルマバレープロジェクト」を紹介する。
静岡県は、医薬品・医療機器の生産が盛ん。厚生労働省の「平成27年(2015年)薬事工業生産動態統計」によると、静岡県は医薬品生産金額が全国第5位、医療機器生産金額は全国第1位で、全国の医療機器生産額の約19%を占めている。
「ファルマバレープロジェクト」は、製薬・医療機器工場、製薬企業などの研究拠点が特に多い県東部地域を中心とした、医療健康産業クラスターの活動。地域の民産学官が協働して「ものづくり」「ひとづくり」「まちづくり」に取り組んでいる。
1996年、「静岡県立静岡がんセンター」の基本計画策定時に「センターを核にした医療城下町を作っては」との声が上がったことをきっかけに、2001年に富士山麓先端医療産業集積構想(ファルマバレー構想)を策定。その翌年、伊豆半島の付け根、JR三島駅から車で15分ほどの場所に県立静岡がんセンターが開設され、プロジェクトも動き出した。
2002〜2006年までの第1次戦略計画では、基盤整備・体制づくりに注力。2003年、プロジェクト推進中核支援機関となる「ファルマバレーセンター」を開設し、静岡県庁と一体となって共同研究・臨床試験、製品開発支援などのワンストップサービスを提供している。また2005年には、病院に隣接して「静岡がんセンター研究所」を開設。県内外の大学、医療機関、民間企業、研究所等による共同研究が行われている。
2007〜2010年の第2次戦略計画は成長期と位置づけ、地域企業の参入を促進。地域企業が培ってきた優れたモノづくり技術や農林水産物などの地域資源を生かし、地域企業が「医療健康産業」へと参入できるよう支援している。
現在は、2011年から10年間の第3次戦略計画を推進中だ。自律的発展期として「Made in Mt.Fuji」製品を世界に売るための、医療機器などの開発、販売支援のためのプラットホームや販売促進ネットワークの形成、関係機関との連携充実など、「もの」「ひと」「まち」に「世界展開」を加えた4つの視点で取り組みを強化している。
静岡県といえば、温泉や海など、首都圏ではおなじみの観光地。お茶やみかんなど南斜面を生かした農作物や、豊富な海の幸、今では有名になったB級グルメなど食の楽しみも多い。
また地理的にも面白い。伊豆半島はもともと伊豆諸島の仲間。長い年月をかけて流れ着いて合体したという生い立ちのため、植物や昆虫などに固有種が見られる。相模湾には水深1000mを超えるがゆえの豊富な生物がいる他、県西部の浜名湖は汽水湖であるため生息する生物の数が非常に多い。歴史的にも徳川家康ゆかりの史跡が多く、昔習った「登呂遺跡」も静岡県にある。
しかし、何といっても奇跡的に美しい富士山だろう。昔から日本を象徴する風景の1つだが、その山麓に医療城下町を作り「Made in Mt.Fuji」を世界に売ろうという取り組みもまた、象徴的と言えるのではないだろうか。
ファルマバレープロジェクトは、さまざまな成果を挙げている。
企業と大学、研究機関が連携し、開発された装置や製品、医薬品のほか、静岡県治験ネットワークを構築し、世界中の企業の治験や臨床研究に活用されている。許認可の支援、薬事法の相談など異業種参入、起業のための支援も手厚い。例えば、自動車部品製造から医療機器製造に参入した企業もある。医療従事者やエンジニアの育成、医療と産業をつなぐネットワーク構築などにも取り組んでいる。
また工業用地を整備して国内外企業を誘致したり、県東部の会議施設等を「静岡県東部地域コンベンションビューロー」としてコンベンションを誘致したり、健康増進と癒やしを提供する伊豆温泉宿ネットワーク「かかりつけ湯」の取り組みを進めるなど、医療、健康をテーマに、人が集まるまちづくりにも熱心だ。
県中部地域の食品関連プロジェクト「フーズ・サイエンスヒルズ」、西部地域の光・電子技術関連産業集積プロジェクト「フォトンバレー」といった県内のクラスターや、海外クラスターとの連携も進めるなど、世界展開も推進。「“医療・健康”をキーワードに、『住んでよし、訪れてよし』、『生んでよし、育ててよし』、『学んでよし、働いてよし』の我が国のモデル地域となることを目指す」というファルマバレープロジェクトは、確実に広がりを増している。
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