近未来技術で地域の課題を強みに――仙北市(秋田県)地方発!次世代イノベーション×MONOist転職

「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第3回。今回は、ドローンや無人運転など近未来技術に本気で取り組む秋田県仙北市を紹介する。

» 2017年11月24日 09時00分 公開
[MONOist]

イノベーションの概要

 2017年9月、AZAPAとリコーは秋田県仙北市で自動運転の共同実証実験を開始すると発表した。その目的は、環境耐性などの潜在的課題を抽出し、新たな技術イノベーションによって解決することにある。

 2017年7月には、遭難者の捜索、救助を想定した「ドローンテクニカルチャレンジin仙北市」が開催された。運用歴2年未満の一般と、学生チームが参加し、新規参入者の育成を視野に入れた競技会であった。

 しかし、自動運転やドローンが、なぜ秋田県仙北市なのか。

 仙北市は国家戦略特区(地方創生特区・近未来技術実証特区)の認定を受け、農業、林業、雇用など、地域の資源や特徴を活用した特区プロジェクトが立ち上がっている。そのうちの一つとして「近未来技術分野」を推進しており、さまざまな実証実験が行われているのだ。

 2016年4月には情報通信研究機構(NICT)が、ドローンを使って学校図書室の本を別の学校へ配送する図書配送システムの実証実験を行った。約1kgの図書を積載し、高度約50m、距離約1.2kmの自動航行に成功。ドローンにはセキュア通信技術が組み込まれ、制御信号の乗っ取りや情報漏えいを完全に防御した環境で、ドローン配送サービスが可能であることを実証した。

 また2016年7月には、日本初となる「ドローンインパクトチャレンジ アジアカップ2016」を開催。特例を活用して申請から免許発給までを原則「即日」とし、日本のアマチュア無線免許を持たない外国人の参加を可能にしたことから、中国、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インドネシアからの海外選手を含む、50人が出場。約1400人が観戦した。

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 2016年11月には、完全無人の自動運転バスを公道で走らせる、日本初の実証実験も実施した。県道約400mを時速約10キロメートルで4往復し、地域住民など62人が試乗。雪道への対応や交通弱者対策として期待されている。

イノベーションの地域性〜秋田といえば……

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 秋田県というと、雪深い風景やなまはげ、特有の方言、また米や日本酒、きりたんぽ、秋田犬、秋田美人などが思い浮かぶ。しかし仙北市という地名は、あまりご存じないかもしれない。

 県の東部中央に位置し、岩手県と隣接している仙北市は、平成の大合併で、田沢湖町、角館町、西木村が合併して2005年に誕生した。水深日本一の田沢湖や温泉群、春の桜と武家屋敷が美しい角館などが有名だ。

 しかし、高齢化、過疎化は深刻。市の面積の約8割が森林で、その多くは国有林であるため、自由に使用することができないという事情もある。課題の打開策として、特区の規制緩和を活用して、地域創生に「本気で」取り組んでいるのだ。同市では国に対し、ドローンの技術実証の場として国有林を活用することも提案している。

ここに注目!編集部の視点

 まず、研究や趣味ではなく、実生活での運用を目指していることに注目したい。人が足りないなら技術で補う、その技術を実運用につなげるために、国有林やスキー場跡地など課題となりがちな地域資源を生かす。この発想は、同じ問題を抱える多くの自治体のモデルとなるに違いない。

 またえたいの知れない近未来技術について、市民の理解を深め、便利さを実感してもらえるよう、図書運搬やイベント、無人バスの試乗など、一般の市民を巻き込んでいることもポイントだ。

 仙北市の鳥は「イヌワシ」。事業創造計画「せんぼくフライトプラン」には、以下のようなビジョンが記されている。

大自然の中を舞い飛ぶイヌワシ。250年以上前から地域の発展と安寧を願い、夜空を舞台に繰り広げられてきた伝統行事「紙風船上げ」。この地に生きる私たちはいつの時代も空を見上げ、未来を信じ、前に進んできました。(略)時代の変化を乗り越え、明日に続く道を示すため、仙北市は「地方創生特区」、「近未来技術実証特区」、という名の翼を得て、羽ばたきを始めました。

 市では、田沢湖高原スキー場跡地上空を仙北市指定のドローン飛行エリアを設定し、ドローンのスクールや貸し出しなど、将来の担い手も積極的に養成。「ドローンならSEMBOKU」といわれる日は遠くないのかもしれない。

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