製造業のVR活用について、山崎氏は「マーケティング」と「レビュー」の2つに分けて考えているという。
マーケティングでの利用については、営業やバーチャルショールームでの利用、メンテナンス事業における教育などが含まれる。取り組みの例としては、VR製品やコンテンツの販売、企業や製品のPR、特別な顧客体験の提供などが挙げられる。そのコンテンツ制作においては、来場者数や受注件数などKIPがはっきりしているため、社内で予算をつけやすく、コストが掛けやすい。ただしコンテンツの寿命は数年程度しか持たないなど、比較的短くなる。
レビューについては設計開発、保守までの幅広いフェーズでのコラボレーションを挙げた。レビューで導入することで製品価値の創造や、不具合の予防などが期待できる。製品設計から市場投入、アフターサービスといった過程でのスムーズな合意形成も可能になり、あらかじめ製造事情を考慮した設計もできる。
「3Dデータそのものが納品物になるためデータには正確さが要求される。ただし、手間はなるべくかけないようにすることが大事」と山崎氏は説明する。
例えば業務のデジタライゼーションやIT化においては業務改善を目的としていれば、作業に当たる人員や使用する紙の枚数など効果が数値化しやすい。しかし設計製造でのレビューでの活用については、「問題発見ができる」「気付きを促す」といった、改善ではなく、業務能力をより高めるという効果になるため、効果の数値化や訴求が難しく、予算が取りづらくなる。それに、業務で困っているわけではないため、導入のための労力を現場になかなか割いてもらいづらい。ただし、コンテンツを1度作ってしまえば長年にわたり運用できる可能性が高い。
それぞれの特性を踏まえると、マーケティングではとにかく早く適用することが重要になる。ただし最近は、世の中の人の「VR体験の驚きが薄れているかも」と山崎氏は言う。製造業についていえば、自動車業界ではOculus RiftやVIVEを用いたVRが広まってきており、「今後はコンテンツの内容を重視する傾向になってくるのでは」と同氏。ただし自動車業界やエレクトロニクス系以外の分野であれば、それほどVR活用が進んでいないため、まだまだ驚きは得られやすく、VRに取り組むなら「今のうちに、早めに」と山崎氏は提言する。
展示会でのVR活用であれば、「コンテンツの役割を見失わないことが大事」だと山崎氏は話す。「製品のスペックの説明をしたいのか」「PRポイントを強調したいのか」といった目的によって、「顧客と直接話すきっかけにつなげる」「面白がってもらえればOK」など目指す効果も異なってくる。
レビューでの活用については、「機器をすぐ使えるところに置くことが大事」だと山崎氏。建設機械メーカー コマツによるVRシステム導入を例に出し、「設計製造の拠点に機器を置くことは正しいやり方だったと思った」と話す。データ変換に際しては、ポリゴンリダクションなど手間のかかる作業をなるべく避けられるよう、3D CADやCGツールに付属、あるいはそれと連携するVRコンテンツ作成機能を使った方がよいとアドバイスする。
今後の同社における課題は、大規模データや非定常解析の可視化の対応だという。VRで表示するためのプロセス改善や、データ削減の手法などに取り組んでいるとのことだ。
また現状のVR技術は視覚がメインである。触覚については一部のシステムで部分的に実現しているにすぎず、「設置には費用も手間もかかり、業務適用の効果と見合わない」と説明する。「力をかけたり、触ったりが検証できるようなシステムの登場は、2012年当時からずっと望んでいる」(山崎氏)。
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