空前絶後のVIVE登場でイェーッ!!(だけどCAVEも活躍中)――三菱重工における製造業VRと分類VR事例(1/2 ページ)

三菱重工業のプロダクトデザイナー 山崎知之氏がHTC VIVEとの出会いと興奮を語る。廉価なVRを導入しつつも、従来のIPTシステムともすみ分けて、VRシステムを効果的に使い分ける。SCSKが2017年8月24日に開催した「SCSK VR Collaboration Seminar」より。

» 2017年09月26日 13時00分 公開
[小林由美MONOist]

 SCSKは2017年8月24日に都内で「SCSK VR Collaboration Seminar」を開催した。三菱重工業(以下、三菱重工) マーケティング&イノベーション本部 先進デザインセンター 上席主任 山崎(「崎」は旧字)知之氏が「三菱重工グループにおけるVRコラボレーションのいまと未来」と題して同社のVRコラボレーションについて講演した。

 プロダクトデザイナーである山崎氏は先進技術研究センターに在席し、VR技術活用の研究に従事してきた。三菱重工は2012年から同社の全製品において、設計、解析、営業、製造、アフターサービスに至るまでのバリューチェーンの各ステージにおいて、VRやMRを活用した業務改革に取り組んできた。2017年からは、VR技術活用関連の研究が同社のマーケティングイノベーション本部へ移され、これまでは技術側の取り組みであったVR技術の活用が、営業と技術の間という位置付けになったという。

三菱重工業 マーケティング&イノベーション本部 先進デザインセンター 上席主任 山崎知之氏

 2012年11月に開催した「第26回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2012)」においてはVRを用いた製品の仮想展示を実施した。大型の機器展示では搬入コストが高額になる。VRを活用することで仮想的な機器展示を実施することで来場者に製品体験を提供し、展示コストを抑えた。

 この他にも、三菱重工の実際の取り組みとして、解析における活用例ではCFD(流体解析)の解析結果の評価を挙げた。通常、CFDは3D化されていても、実際に画面で見る際は2Dになってしまう。VRでは立体的になることで、複雑な流線や等値面が見やすくなる。あらゆる方向から結果を確認しやすく、「配管の内部からのぞく」といったこともできる。従来のように2Dの画面で見る場合より、評価を素早くできるようになり、新たな気付きも得やすくなったという。

 製造においては、洋上風車の組み立てや施工方法の検討での活用を挙げた。設計段階で、営業や設計などさまざまな部門の人たちで議論することが可能で、問題の早期発見につなげることもできたとしている。「さまざまな立場の人にとっての共通イメージの極みがVR」と山崎氏は言う。

 おびただしい数の品種を扱い、受注生産型の製品も多い三菱重工においては、「顧客と一緒に作る」という考えがとても重要になるという。同社では製品企画の段階からVR空間で設計データを顧客と共有し検討を進める。設計が少し進んだ段階で現場でのオペレーションやメンテナンスをする担当をVRレビューに呼び、さらに詳細設計に入れば据え付け担当を呼ぶ。「製品設計のQCDを高めながら、顧客満足度も高められる」(山崎氏)。

空前絶後の、VIVEショック

 同社が最初に導入したのが没入型VRシステムの「CAVE(Cave Automated Virtual Environment)」だった。CAVEはヒトの両眼視差(左右の目における像の見え方の差異)を利用しながら、立体視画像を3Dプロジェクターに表示するシステム。いわゆる「IPT」(Immersive Projection Technology:没入型ディスプレイ)と呼ばれるものだ(関連記事:ゲーム少年の熱意で生まれたHMDと、Holographicのインパクト)。

 CAVEは導入に数千万円はかかる高級システムだ。そして、同社がCAVE導入後の数年、VRの市場は大きく変化することになる。FOV2GOといった廉価にHMDを実現するプロジェクトが進められ、やがて「Oculus Rift」「HTC VIVE」といった廉価なHMDが市場に登場。VRシステムの世界に価格破壊が起こった。数千万円を投資することが当たり前だったMRについても、60万円ほどで購入できるマイクロソフトの「HoloLens」が登場し、大きく市場が揺れ動いた。

 これらの動きは、同社が高額なVRシステムに投資してしまった後の出来事であり、「もう少し早く来ていたら……」と山崎氏はこぼす。またこの動きはまさに空前絶後ともいえて、「イノベーティブ過ぎる、大ショック」と話す。VIVEの登場には大興奮したという。

 三菱重工においてもVIVEを購入して、現場での活用を試み始めている。VIVEは使っている間にも、機能がどんどん洗練されていくのが感じられた。10万円以下の装置であるため、展示会前日に機器を破損しても、社内の稟議が必要ないのですぐ買い付けに行けるという利点もあった。「配線が非常に少なく、セットアップが簡単すぎて、トラッキング機能も素晴らしく、この1年間、叫び声をあげながら使い続けた」と自身が受けた衝撃と興奮の思いを表現する。

 そうはいっても同社のVRシステムを完全にVIVEに置き換えていくわけではなく、CAVEは現役であり、社内の会議や顧客とのレビューなど、プロジェクターの前で、表情をしっかり見て話がしたい場合などに活躍しているという。HMDをかぶってしまうとその場の人の様子や表情がよく見えなくなってしまうからだ。

 CAVEのようなIPTシステムは現在も値が大きく落ちていない。山崎氏は「IPTシステムの値段も桁が変わるほどに落ちてほしい」と希望を述べた。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.