製造業の今までの10年、これからの10年(後編)MONOist編集部が語る(2/4 ページ)

» 2017年09月06日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

「記事の価値」「記者の意見」

ミシマ サンスーさんは、印象に残った記事や取材はありますか?

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サンスー プロフィール

電機業界紙やモノづくり業界誌など技術系メディアを渡り歩いたベテラン編集記者。自動車技術を10年間取材していたが本人はペーパードライバー。プロレス好きで週刊プロレスはほぼ欠かさず買っている。


サンスー 直接は記事にしていないんですが、元「日産GT-R」開発責任者の水野和敏さん※)との話が思い出に残っています。当時は日産自動車を退職された直後でさまざまな話をさせていただきました。クルマの開発の話なども当然盛り上がったんですが、それとは別に「記事の価値」についての話が印象的でした。

※)関連記事:元「日産GT-R」開発責任者が語る、モノづくりにおける日本人の強みとは?

 今まで私は記事には、自分の意思を入れすぎずに事実を淡々と伝えるのがよいと思ってやってきたんですが、水野さんからは「取材を受ける立場からすると編集記者の感覚や経験で先回りした記事にこそ価値がある」と言われました。さらに「当たったか外れたかはそれほど重要ではなく、その時にその場にいてそう思ったということが重要。それを出すことに価値がある」と続けられました。

 こういうことを取材相手から言われることはあまりなくて、取材のやり方や記事の出し方に大きな影響を受けました。編集後記にも、自分の考えを積極的に入れるようになりましたし、今までの記者人生ではあまり考えなかったところが変わったといえます。

ミシマ コバユミさんは比較的意見を前面に出していたり、企画にエッジが立っていたりする記事が多いような気がします。

コバユミ 意見はどうか分からないですが、現場感覚や現場に寄り添うところから発信するというところは基準として置いているつもりです。あとは難しいことを、柔らかく楽しく描くことでしょうか。そういう意味では2015年4月に公開した「桜の花の落ちるスピード『秒速5センチメートル』は正しいのか?」も思い出深いですね。映画「君の名は。」で、今ではすっかり有名になった新海誠監督のアニメーション作品「秒速5センチメートル」を素材として、「本当に桜の花の落ちるスピードは秒速5センチメートルなのか」を流体力学で検証した記事です。

 毎年桜の季節に読まれるようになって「してやったり」という感じです(笑)。流体力学は難しくてとっつきにくい内容だと思うのですが、そういう領域の話を身近に引き付けて柔らかく表現して、それが良い反応を受けたというのはとても達成感がありましたね。今後も難しい技術や内容をエンターテインメントに寄せて取り上げることは進めていきたいですね。

サンスー ミシマさんはどうなんですか?

ミシマ いろいろあるんですけど、やっぱりまず挙げるとするとベッコフオートメーション 代表取締役社長の川野俊充さんに書いていただいたドイツのインダストリー4.0に関する解説記事「ドイツが描く第4次産業革命『インダストリー4.0』とは?」ですかね。

 座談会の前編でも触れましたが、とにかく電機業界が苦しむ状況を見てきた中で「製造業としての正解の方向性はどちらにあるのか」というのが個人的なテーマとしてありました。でも、当時のエンタープライズITベンダーが主張していたシステム論的な話はどうも日本の製造業にとっては合わないのではないかと見ていて「何が正解なんだろう」と悶々としていた記憶があります。

 そうした中でドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」の話を聞いて「これだ!」と、天啓を受けたような気がしました。ちょうどその頃にタイミングよく川野さんに出会い、今でも読まれるとても素晴らしい解説記事を書いていただくことができました。パズルのピースがパタパタと収まっていくように進んでいったのが非常に印象深かったですね。

 この「インダストリー4.0」への関心がきっかけとなって、同時進行的に製造業の将来に対する危機感を共有するさまざまな人たちと出会うことができました。今でも「正解の形」を探る情報発信を進めていきたいと考えています。

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