東京大学は、染色体タンパク質に対して、アセチル化修飾を選択的に行う人工化学触媒システム「SynCAcシステム」を開発した。このシステムを用いることで、遺伝子の転写を人工的に促進できる可能性が示唆された。
東京大学は2017年6月11日、染色体タンパク質に対して、アセチル化修飾を選択的に行う人工化学触媒システム「SynCAcシステム」を開発したと発表した。さらに、同システムを用いることで、遺伝子転写を人工的に促進する可能性が示唆された。同大学大学院 薬学系研究科 教授の金井求氏、特任講師の川島茂裕氏、助教の山次健三氏らのグループによるもので、成果は6月8日、米化学誌「Chem」オンライン速報版で公開された。
今後、SynCAcシステムは、生体内反応の機能を解明する実験技術の開発につながることが期待される。また、生体内に人工化学触媒システムを導入し、人工的にヒストンのアセチル化修飾が可能になると、触媒医療としてがん/リンパ腫などさまざまな疾患の治療につながる可能性があるという。
染色体の最小単位は、ヒストンと呼ばれるタンパク質とDNAの複合体ヌクレオソームから構成される。DNAに保存されている遺伝情報は転写を経て、最終的にタンパク質に変換されることで発現する。ヒストンは酵素によってさまざまな化学修飾を受け、それによって遺伝子の転写が促進/抑制される。特にアセチル化修飾は、がん抑制遺伝子などの転写を促進することが知られている。
同研究グループは、DNAを認識してヌクレオソームに結合する触媒とアセチル化剤を組み合わせ、ヌクレオソームと反応させることを考えた。そこで、DNAが負の電荷性を帯びている性質を利用し、正の電荷性を持つ触媒とアセチル化剤を設計。これらをSynCAcシステムにより同時に用いて、生体内の酵素を介さずにヒストンを人工的にアセチル化修飾することに成功した。また、さまざまなタンパク質が混在する中でもヒストン選択的にアセチル化が進行した。
未修飾のヌクレオソームは高濃度のマグネシウムイオン存在下で凝集するが、今回アセチル化修飾を行ったヌクレオソームは、高濃度のマグネシウムイオン存在下でも凝集が抑えられていた。また、このアセチル化が染色体再構成因子の存在下で転写を促進することを発見した。これらは、人工の化学触媒システムが生体内の酵素と同等の機能を示し得るということを示唆している。
さらに、アセチル化剤をマロニル化剤に変えるとマロニル化反応が進行し、ヌクレオソームの性質が大きく変化することも明らかになった。
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