機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は、推進者を悩ます人たちの裏に潜む問題について考えていきます。
前回、「方々で3D推進のお話を聞くと、必ず『抵抗勢力』という言葉が登場します」と話をしました。今回は、抵抗勢力について少し掘り下げて考えていきます。
「3D CADを導入する」ということは、「設計改革」や「設計革新」ともいわれることがあります。私自身は、これが果たして、改革や革新に当たるものなのかどうか、少々疑問に感じます。「3D CADによる見える化」ということも良く聞きますが、これも同じく疑問に感じます。
更に、ここ最近では「VR(Virtual Reality)」技術で「見える化」と言われますが、「見えればそれでいいのか」とも思います。
多くの設計者の仕事の進め方としては、構想を紙にポンチ絵を描くというアナログな作業を行い、ノートに書いて設計計算を行い、3D CADに向かって詳細設計するという流れは今も健在で、ドラフタの時代の流れとさほど変化はないでしょう。
最近はデジタルツールの進歩によって、ポンチ絵の段階からデジタル化ができるようになり、更には3D空間にもスケッチを描くことが可能になりました。設計計算はCAEを用いることが容易になりました。3D CADというものも、「Computer Aided Design=コンピュータ支援設計」から「Computer Augment Design=設計者の能力を拡張する」という意味のシステムに変わりつつあります。しかし、「Augment」(拡張)の部分を議論しようとすれば、「そもそも設計者の設計能力とは」という話に行きつくのではないでしょうか。
設計においては、成果物に対して設計者による妥当性の判断が必要になります。成果物をうのみにするだけではいけません。
CAEで良く言われる妥当性評価がこれに当たります。そのために求められるのは、例えば材料力学的な見識を持っている、熱力学的な見識を持っていることです。さらに重要なのが、実際の機械構造を理解していて、その現象を経験しているということです。要するに、高度なツールを用いるためには、そういった知識と経験に基づく判断力が望まれるというわけです。
また、高額を投資して3D CAD化の効果を得るには、設計部門だけでの展開では十分ではなく、全社展開ができてこそ、その効果を実感することになります。それが、「TPD:Total Product Development=全社的製品開発」のコンセプトになっています。
設計改革や設計革新という言葉に疑問を持ったことと、VRで「見えればそれでいいのか」と思ったことの真意はそこにあります。3D CADの導入そのものが設計改革や設計革新ではなく、TPDの域に到達することで会社の改革や革新につながると私は考えているのです。
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