3D CADを現場に展開しようとすると、さまざまなことが起こるでしょう。
私自身も、3D展開を始めようと意気揚々としている初日に、こんなことがありました。
ベテラン社員のAさんが私に向かってやってきて、こんな話をいきなり始めたのです。
3D CADって意外と不便なものですね。2D CADみたいに思うように動かないし、操作は面倒だし、結局は図面を描いているではないですか。それでは効果がないと思いますよ。データをCAMまで展開しないと意味がないのではないですか?
現状把握をしようと動き始めたばかりの段階で、その挑戦的ともいえる発言をされ、当時は少々焦ったものです。
相手の言うことを否定してしまうだけでは、相手は聞く耳を持たなくなります。そこで、「Yes But話法」(※)で答えました。
そこでいきなり否定してしまえば、相手は攻撃的になるか、こちらの話を聞こうとしてくれません。いったん相手の言うことを聞いて、認めてあげることで、相手は「話を聞いてくれる」と共感を覚えてくれます。その上で、自分の考えを相手に伝えることで、話を進めるわけです。
つい「でも」といきなり言ってしまいそうですが、そこは我慢です。当時の私は、こう言いました。
確かにそうかもしれません。3D CADは2D CADに比べれば、覚えることも少なくはありませんね。使う機能も限られてくるし、初めは大変かもしれません。だけど、慣れてしまえば、何とかなると思いますよ。多くの情報を持てるようになることがよいですよね。ところで、どのような機能について不満があるのですか?
私の問に対して、Aさんはこう答えました。
部品表と風船が連動しないのですよ。CAMはちょっと分からないのですがね。でも機械部品って複雑な形状はないことが多いので、CAMまで必要なのですかね?
その後も話は続きました。
え!! そんなことあるのですか? 組図上の部品表と風船なんて当たり前のように連動するのだと思っていましたよ。確かめるようにしますね。
確かに、機械部品は2.5次元加工が多いです。複雑な形状の多軸加工に比べれば、2D図面化を省く効果は小さいかもしれませんが、2D図面がなくなればよいのでは? でも図面レスにしていくルールを作る必要はありますね。
――そんなやりとりでしたが、今でも鮮明に覚えています。
この時にAさんが私の真意をちゃんと理解してくれたのかどうかは、今となっては分かりませんが、とにかくそれ以来、同じ議論が交わされることはなかったのです。
もう1つ、過去にはこんなこともありました。
ある新規設計の装置本体を、“ほぼ100%”3D CADを用いて設計していた時に、ベテラン社員から発せられた言葉が、こちらです。
俺たちはスキルがないから3D CADは出来る人に任せるよ。俺たちは2D CADでいいや。
また設計部門以外からは、こんなことも言われました。
CADなんて言うのはしょせんお絵かきツールでしょ。設計の本質ではないですよ。
同じく、設計部門以外の人から、こんなことも……。
早く、3D CADのビュワーの使い方を教えてよ。
それより過去は、もっと散々な言われようをしたものです。
3D CADなんて重くて使えないでしょ。
うちの設計には3D CADは向かないよ。
3D CAD導入の前に設計はやることあるんじゃないの。
3D CADにすると何が変わるの? いいことあるの?
とにかく、「早く3D CADを使わせてください! 期待しています」という言葉が聞けたことは、私の経験の中では一度もありませんでした。皆さんはいかがでしょうか。
設計現場、あるいは設計現場に近いところでさえ、そのようなことがあるのですから、3Dデータの全社活用をしようとなれば、肯定的な話よりも、批判的な話、否定的な話を聞くことが多くなるかもしれません。
新しい仕事のやり方というのは、ご自身の仕事のやり方を否定しているかのように聞こえるものなのかもしれません。これまでのキャリアや仕事のやり方を否定しているわけではないのですが。
そして、そういう人たちを総じて「抵抗勢力」と、さまざまな人たちが言っているのかもしれませんね。
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