フロントローディングすると工数が増える現実――抵抗勢力と現場の勘違い3D設計推進者の眼(21)(3/4 ページ)

» 2017年05月30日 10時00分 公開

一見、うまくいっていそうな現場でも、不満いっぱい

 トップダウンでの導入が進められている現場でも、3D CADを上手に使えている現場でも、こんな声がよく聞こえてきます。

 設計者たちは、こんなふうに“誰か”に訴えています。独り言の声量ではありません。

遅い! 何とかしてよ!


PDMにチェックインしようとしているだけなのに、帰れないじゃん!


あ〜落ちた。ふざけるなよっ!!」


 直接CADやCAEには触れることがほとんどない管理職の人たちは、こんな感じです。

なんか設計者が苦労しているみたいだけど、いったいどういうことなの?


ミッドレンジのCAEなんてできないことばかり。ハイエンドに変えてよ。


3D CADを使うとフロントローディング化が図れるって聞いたけど、設計時間が短縮なんて図れないでしょ。ウソつき!


 3D CADを使えと言われるから使っている、こちらから言うことは別に何もないといった具合に、反応すらしない設計者もいます。

 推進者はそんな状況の中で、まるで自分がいけないような気持ちになってきます。

 「当たり前のように使えること」が前提となるせいか、うまくいっていることは絶賛されることはなく、うまくいっていないことは悪評されることが多いです。

苦情の裏にある勘違い

 そんな苦情について丁寧に調べていくと、このような問題が明らかになってきます。

  • ワークステーションといえども、いろいろなアプリケーションを立ち上げたまま3D CADを使用していて、メモリを消費している状態だった。
  • PDMシステムそのものの問題ではなく、サーバを結ぶ、社内のイントラネットの設備や通信速度の問題だった。
  • 苦情だけ聞いた、その詳細を知らない人物が大騒ぎしたことで、大事な雰囲気になっていただけ。実は現場は対応できていて、問題には至っていなかった。
  • 3D CADやそのデータ運用について、自分の理解を超えるような技術的な内容に対して、それを理解しようとはせず、否定するという形で発信していた。
  • CAEのことを「何でもできる魔法の箱」のように勘違いしていた。
  • 依頼者がCAEで何を確認したいのかが明確になっていなかった。
  • 解析を行う側も事象を捉えていなかった。依頼者に言われた通りにやっただけだった。

 また、「3D CAD=フロントローディング」だとよく聞こえてきますが、これを「設計時間の削減」と勘違いしている人も多いようです。またそう誤解を生じるように話をしてるベンダーの方々もいるのではないでしょうか。

 確かに、設計初期の段階に負荷をかけ、設計検証作業を行うことによって、製品化や組み立ての際の手戻り作業を削減することは可能になります。これによって全体的な開発期間を短縮できる可能性はありますが、設計や設計支援を行う人の負荷は増えます。「コンカレント・エンジニアリング(concurrent engineering)」および「サイマルテニアスエンジニアリング(simultaneous engineering)」(※)についても、同じです。

※:コンカレントエンジニアリング:設計・加工・組立・製造・保守などの各部門の視点を早期から開発に盛り込むこと。サイマルテニアス・エンジニアリングと同義

 これらは、各部門が情報を共有しながら、開発を進めて行く手法ですが、結果的に開発製品に対する品質に対する効果はあることと、これもまた手戻り作業につながることから、結果的に開発期間短縮の可能性はあります。でも、多くの人が開発設計に関わるため、設計期間が単純に短縮されるということにはならないのです。設計工数だけを考えれば、むしろ増加傾向ということになります。

 このような勘違いも、批判や苦情を生みだす背景になります。

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