UI開発のフレームワーク「Qt(キュート)」の最新版「Qt 5.8」は、従来比で最大80%ものプログラムサイズ削減が可能になる新機能「Qt Lite」を搭載した。日本市場では、自動車、産業機器、IoTデバイスをターゲットに採用拡大を目指す。
液晶ディスプレイやタッチパネルのカラー化、大型化、高精細化、低価格化が進展したことによって、さまざまな電子機器にディスプレイベースのユーザーインタフェース(UI)が用いられるようになった。携帯電話機からスマートフォンへの進化はその代表的な事例と言っていいだろう。
カーナビゲーションシステムなどの車載情報機器や、工作機械などを操作するディスプレイコンピュータも、機器本体の機能進化に合わせて、UIも複雑になっている。さらには、IoT(モノのインターネット)の時代を迎えたことで、ディスプレイベースのUIを搭載する電子機器の数が急増することも予想されている。これら電子機器のUIを開発する上で採用が広がっているのが、C++言語を用いたUI開発のフレームワーク「Qt(キュート)」である。
Qtを開発したのは1991年に設立されたノルウェーのベンチャー・Trolltechだ。その後2008年にノキア(Nokia)がTrolltechを買収。2011年にはディジア(Digia)がQtの商用ライセンス事業を買収する一方で、Qtの開発はオープンソースプロジェクトのQt Projectが進めることとなった。2014年にはディジアのQt部門がスピンアウトしたThe Qt Companyが発足。そしてThe Qt Companyは、2016年5月にディジアからの独立を果たしている。
The Qt Company 副社長 営業/事業開発担当のユアペッカ・ニエミ(Juhapekka Niemi)氏は「ノキア買収と、オープンソースプロジェクトによる開発がきっかけとなって、Qtのエコシステムは急激に拡大した」と語る。実際にQtの開発者は、世界全体で約100万人に上るという。
Qtのユーザーは欧米が中心だが、その次にユーザーが多い市場が日本だ。そこで2016年7月には東京に日本オフィスを開設した。販売パートナーであるアイ・エス・ビー、SRAとともに、国内展開を広げていきたい考えだ。
Qtの特徴は、1つのコードベースでさまざまな機器、OSに対応したUIとアプリケーションを開発できることだ。Windows、iOS、Android、Linux、Android Wearなど12のOSに対応しており、UI開発のために必要なライブラリ、開発支援ツール、統合開発環境などがそろっている。
当初の中核ユーザーは、デスクトップPCで利用する設計開発ツールのUI/アプリケーション開発者だった。しかし現在では、電子機器のディスプレイベースUIの開発でも広く利用されるようになっている。例えば、スマートTV、セットトップボックス、3Dプリンタ、MRIなどの医療機器などの開発に用いられている。
The Qt Company CTOのラース・ノール(Lars Knoll)氏は「Qtは、自動車、医療機器、産業機器と言った組み込み機器分野での成長が期待できる」と強調する。2017年1月23日にリリースした、最新版の「Qt 5.8」は、そういった組み込み機器分野からの要求に応える新機能を多数採用した、大型アップデートになっている。
Qt 5.8の新機能で最も注目されるのが「Qt Lite」だろう。ノール氏は「20年以上の歴史を重ねる中で、Qtの機能はリッチになってきた。そこであらためて、IoTデバイスに搭載されている高性能とはいえないプロセッサでも動作させられるようにしたのがQt Liteだ」と説明する。
Qt Liteは、開発中の機器に必要なQtの機能を選んで利用できる、Qtフレームワークをカスタマイズする機能だ。プログラムサイズを削減したり、起動時間を短縮したりできる。「Qt 5.6」やQt Liteを使わないQt 5.8と比べた場合、最大80%ものプログラムサイズ削減が可能になるという。
また、組み込み機器の開発者であっても容易にUIを開発できるように、Qt Liteの開発画面を自由にコンフィギュレーションできる設定ツールも用意した。「IoT時代に入り、開発する電子機器とUIの数は急激に増えるが、それに対応してUIを開発してきたC++言語を扱える技術者が増えるわけではない。誰でも簡単にUIを開発できるようなツールを用意することで、この状況に対応できればと考えている」(ノール氏)。
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