京都大学は、メラニンが輸送されるメカニズムの一端を解明したと発表した。これは、尋常性白斑や皮膚ガンなどの研究や、しみやそばかす対策など、幅広い領域への応用が期待される研究成果となる。
京都大学は2016年12月5日、メラニンが輸送されるメカニズムの一端を解明したと発表した。同大学理学研究科の高橋淑子教授、田所竜介同助教らの研究チームによるもので、成果は同月2日に英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
メラニンは顆粒として色素細胞で作られた後、隣接する表皮細胞へと運ばれる(メラニン輸送)。これまでのメラニン輸送の研究は、色素細胞と表皮細胞を培養シャーレの上で解析する手法がほとんどで、その仕組みについてはよく分かっておらず、論争が続いていた。
同研究グループは、ニワトリ胚を用いて、3D皮膚でのメラニン輸送の様子をムービー撮影(ライブイメージング解析)することを試みた。ニワトリ胚を用いたのは、その色素細胞が皮膚全体に広く分布しており、ヒトとよく似ているためだ。
まず、メラニン輸送が起こり始める孵卵後10〜11日目のトリ胚から、皮膚を3Dのまま取り出して、培養皿の上で培養しながら、コンフォーカル顕微鏡(3次元画像が撮れるレーザー顕微鏡)で高解像度ライブ観察した。その際、皮膚に含まれる色素細胞には、あらかじめGFP遺伝子が働くように操作するなど、新開発の手法を用いた。これにより、生体内とほとんど同じ環境下での色素細胞の動態を可視化することに成功した。
このライブイメージング解析により、メラニン輸送について次の4つが明らかになった。まず、色素細胞の細胞膜上に、水疱状の構造(細胞膜ブレッブ)ができた。次に、この細胞膜ブレッブ内に、既に作られていたメラニン顆粒が1つずつ包み込まれていった。続いて、メラニン顆粒を包み込んだブレッブが色素細胞からくびれ切れて、膜小胞となって細胞外に放出された。この膜小胞は、転移ガンなどで知られるRhoタンパク質に依存的に作られるものだ。そして、放出された膜小胞が、隣の表皮細胞に取り込まれ、最終的に表皮細胞の核を守ることが分かった。表皮細胞が褐色に色づくのはこの仕組みによる。
同成果は、これまでの論争に一定の決着をもたらすものだ。また、尋常性白斑や皮膚ガンなど重篤な病気についての研究や、しみやそばかす対策といったコスメティックス分野など、幅広い領域への応用が期待される。
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