大阪大学は、ブレイン・マシン・インタフェース技術を活用した義手(BMI義手)を使った新たな訓練方法を開発した。幻肢痛の患者がBMI義手を使うことで、痛みをコントロールできることを発見した。
大阪大学は2016年10月27日、ブレイン・マシン・インタフェース技術を活用した義手(BMI義手)を開発し、幻肢痛の患者がBMI義手を使うことで、痛みをコントロールできることを発見したと発表した。同大学国際医工情報センターの栁澤琢史寄附研究部門講師、同大学大学院医学系研究科の齋藤洋一特任教授らの研究グループによるもので、成果は同日、英科学誌「Nature Communications」オンライン版で公開された。
BMI義手は、脳活動をセンサーで測り、その信号をコンピュータのプログラムで解読することで患者が念じたように動く。同研究では、BMI義手を用いて、幻肢を動かす脳活動と痛みの関係を調べた。対象患者は、切断肢1人/腕神経叢引き抜き損傷9人の計10人となる。
まず、患者に幻肢を動かすことを考えてもらい、脳活動を脳磁計で計測した。その脳信号のパターンを、機械学習を用いてコンピュータが学習(脳デコーディング)し、ロボットの動きに変換するプログラム(幻肢運動デコーダ)を作成した。
次に、このデコーダを使って動くBMI義手を、患者が幻肢を動かすつもりで操作する訓練を10分間行った。訓練の前後で脳活動を比較したところ、訓練後には幻肢を動かすための脳活動が増えたが、痛みも増加した。
そこで、患者の健康な手を動かした時の脳信号をロボットの運動に変換する健常肢運動デコーダを作成し、それを使って同様の訓練を行った。その結果、幻肢運動の脳情報は少なくなり、痛みが減った。つまり、BMI義手を動かすための手本となる脳活動を変えることで、幻肢を動かす脳活動を操作でき、これによって痛みをコントロールすることに成功した。
同成果は幻肢痛の新しい治療法につながるもので、幻肢を動かすための脳活動と痛みとの関係を探る手掛かりとなる。また、こうした脳活動の操作について、さまざまな精神疾患などの病態解明と新しい治療法への応用が期待されるという。
幻肢痛は、手や足を失ったことに脳が適応できずに生じるとされる。従来は、失った手の機能を再建することで痛みが減ると考えられてきたが、この仮説に基づいた治療で全ての患者の痛みが減るわけではなかった。また、幻肢を動かすための脳活動と痛みとの関係は明らかにされていなかった。
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