HILSとプラントモデル(その2):いまさら聞けないHILS入門(6)(3/3 ページ)
インジェクターモデルは、エンジン特性試験データを適用できますが、スロットルアクチュエータについては、さらなる実験が必要です。
スロットルアクチュエータモデルに求められる特性は、いろいろなデューティー比のモーター駆動パルスとスロットルバルブの開度変化の関係です。実験は、エンジンベンチのような大規模な装置は不要で、図5のような机上の装置で対応できます。以下に、具体的な手順を示します。
- 任意の周波数とデューティー比のパルスを発生可能なパルス発生器とECUと同等のHブリッジ回路を組み合わせたテスト信号発生装置を準備する(ECUのダイアグ機能のスロットルアクチュエータ駆動機能を利用することも可能)
- スロットルセンサーの出力を測定する
- ECUから出力される駆動出力パルスの全ての周波数とデューティー比について、テストパルスごとに作動テストを行い、スロットルセンサーの動作を測定記録する。図5のグラフは、一例として周波数一定(例えば2kHz)でデューティー比を10%、50%、90%と3通りに変化させた実験を示している
- この実験によって、デューティー比ごとに停止から作動(および作動から停止)に至る過渡応答特性と、定常動作特性を得ることができる
図5 スロットルアクチュエータ特性測定実験(クリックで拡大)
上記から、バルブ回転速度の実験式を求めでみましょう。例えば、デューティー比90%の場合のデューティー信号出力開始後のバルブ回転速度V90%は、
ただし、
- デューティー比90%時のバルブ回転速度安定値:V90%stdy
- 自定数:τ=0.09
- 遅れ時間:t_delay=0.04(sec)
です。
この実験式によるスロットルバルブ回転速度を実測値と比較すると図6のようになります。スロットルバルブ開度の変化は、バルブ回転速度を積分して求めることができます。
図6 スロットルアクチュエータ回転速度の実験式(クリックで拡大)
統計モデルを作るには、システムの詳細な仕様や数式は必要ありませんが、ポイントとなる入力、出力を把握して入出力の特性を明確にする実験を行うノウハウが必要です。今回は、その一例を示しましたが、取り扱うシステム、サブシステムによって実験方法は多様です。一部は、物理の実験そのものですが、多くは、それぞれの製品開発の現場で行われてきた性能評価の実験が適用できます。統計プラントモデルを構築するにあたって、既存の実験方法やノウハウを見直し利用することによって、プラントモデル構築を容易にするだけでなく、これまで培ってきた技術との継続性を持つことにより、HILSやプラントモデルについての信頼性を増大することにも資すると考えます。
HILSにおいて、物理モデルと統計モデルは対立するものではなく、補完しあうものです。よいHILSを構築するためには、HILSコンピュータの性能やHILS構築に利用できる情報に即して、両者を適切に使い分け、組み合わせることが重要です。
次回は、発電機のプラントモデルについて考えてみます。
高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」
1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。
HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。
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