脚光を浴びるIoT(モノのインターネット)だが、製造業にとってIoT活用の方向性が見いだしきれたとはいえない状況だ。本連載では、世界の先進的な事例などから「IoTと製造業の深イイ関係」を模索していく。第2回は、製造業が製品をIoT化する上で役立つ、安価な長距離無線ネットワークとその採用事例を紹介する。
これまで多くの場合、家電やアプライアンス、デバイスといった製造業が作るモノのビジネス形態は、いわゆる「売り切り」であった。量販店などで売ってしまえばそこで顧客接点がなくなってしまうケースが多い。IoT(Internet of Things、モノのインターネット)は、製造業が失ってきた、その顧客接点を持つ機会を与えてくれる。
ただしこれは決して新しいことではない。M2M(Machine-to-Machine)という言葉が主流で使われていた時代から継続した流れである。M2Mによりフリート管理などさまざまなサービスが展開されていた。しかしそれは重機など特定分野において、非常に高額なソリューションとして展開されていた。IoTは、この高額なサービスについて、一般消費者向けへの安価な展開を実現したものだといえる。
その先駆けとして注目を集めたのがAmazon(アマゾン)だ。アマゾンは、Eコマース事業者でありメーカーではないが、「Fire TV」や「Amazon Echo」などさまざまな自社端末を展開している。その中で最も代表的なのが電子書籍リーダーの「Kindle」シリーズだろう。
アマゾンは2007年からKindleシリーズにセルラー回線を搭載し、Amazon.comのWebサイトでコンテンツを購入すると、自動的にコンテンツが転送されてくるサービスを展開した。つまりアマゾンは、ユーザーが「いつでも」「どこからでも」「自由に」コンテンツを楽しめる環境を提供しているのだ。
この仕組みは「Amazon Whispernet」と呼ばれており、コンテンツのダウンロードに関わるデータ通信料はアマゾンが負担している(正確にはコンテンツの費用に含まれている)。アマゾンはコンテンツのデータ量は非常に小さいため大きな負担にはならないとしているが、なぜアマゾンは通信費を支払ってまでこのAmazon Whispernetを展開したのだろうか。
アマゾンは、デバイスからコンテンツまで、流通に関する全てのインフラを自前で提供することで、個々のユーザーが、どのコンテンツを、いつどこで、そしてどこまで消費したかといった細かい購読情報まで把握できるようになった。これはアマゾンが自社主力商品であるモノ(コンテンツ)を売るために取った手法である。好きな時に自由にコンテンツを消費できるサービスを提供し、かつ他のデバイスの購読行動もシームレスに継続させることで、ユーザーの購読パターンや嗜好を把握し、ユーザーの好みそうな別のコンテンツをレコメンドする(勧める)。
このようにアマゾンは、Kindleや他のデバイスを通じて顧客接点を保ち、さらなる購読(購買行動)につなげることに成功した。なお類似のモデルは、ソニーの携帯ゲーム機「Play Station Vita」や、中国のゲーム会社が運営している通信プロバイダー「Snail Mobile」も展開している。
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