他にも代表的なものとして、自動車の車載システム向けサービスがある。自動車は確かにモノ売りではあるが、製品のライフサイクルや車検などの法規制の面から継続した顧客接点を保てる仕組みが確立している。一方で外部の修理工に依頼するなど、その顧客接点が保障されているわけでもなく、また、仮に接点を持てても数年に1度という単位となると「顧客接点」というには疑問が残る。
そこで注目を集めたのが、つながるクルマ=コネクテッドカー(Connected Car)である。コネクテッドカーは、車載情報機器サービスという形で、自動車向けコンテンツが新たな収入源と顧客接点を生み出すとして期待が高まっている。しかしこれらのサービスも、自動車メーカー各社が車両内に組み込んだ通信回線を利用して展開すると、データ通信料が自動車メーカーの負担になってしまい新たなコストを生み出す。特に、車載情報機器で利用する可能性の高いエンタメ系情報の利用状況は予測が立てにくく、時として莫大なデータ通信料になる危険性も秘めている。
そのような中、他社と異なる動きを見せたのがAudi(アウディ)だ。Audiは2016年6月、アイルランドのMVNO(仮想移動体通信事業者)であるCubic Telecomと提携し、欧州13カ国で販売されるアウディの一部車種向けに「Audi Connect SIM」という組み込み型SIM(Embedded SIM:eSIM)を提供すると発表した。まずはドイツそして英国で展開開始する。
Audiの車載情報機器「Audi Connect」で展開する各種サービスを、上限なしの定額制で利用できる。つまり欧州13カ国のどこに移動しても、ローミング費用が発生することなく、「Google Earth」や「Street View」を用いたナビゲーション、交通情報、観光情報、駐車場情報などの各種サービスを受け続けることができるわけだ。また、追加オプションにより、8端末まで接続可能な車内Wi-Fiホットスポット機能も利用できる。
Cubic Telecom採用の最大のメリットは「欧州13カ国においてフラットレート(定額制)で利用できる点だ」とアウディは語る。国境をまたいでの移動が一般的である欧州において、どの国に行っても定額制でサービスを使えるというのはユーザーにとって非常にありがたい。これは自動車メーカーにとって差別化の一要因にもなりえる。
このように、メーカーが自社製品をコネクテッド=IoTにして、モノをサービス化することで差別化を図る例は他にもある。2015年3月、パナソニックは欧州においてM2Mに特化したMVNOサービスを立ち上げた。まずは英国から、4G回線を搭載する法人向け新製品の監視カメラ「Nubo」の展開を始めた。今後フラットレートで世界40カ国以上でに展開する計画だ。通信回線については、英国ではVodafone、スペイン語圏ではTelefonica、フランス語圏ではOrangeの回線を利用していく模様だ。
MVNOサービス開始の理由は簡単だ。売り切りビジネスからの脱却である。これまでの、家電などの製品を販売する「売り切り」のビジネスモデルでは、保守契約を締結しない限り顧客接点がなくなってしまう。仮に保守契約を締結してもその締結先が販売店や大手量販店というケースもあり、必ずしも顧客接点が保てるわけではない。一方でコネクテッドにすることで、ハードウェア、ソフトウェア、カスタマーサービスを一元的に提供しつつ継続的な顧客接点が望める。
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