製造業のIoT化を加速させる安価な長距離無線ネットワークの可能性IoTと製造業の深イイ関係(2)(3/4 ページ)

» 2016年09月14日 13時00分 公開

低速かつ安価にデータを送信するLPWAネットワーク

 このように、消費者向け製品のIoT化を進めることで、メーカーは製品の売り切りビジネスからの脱却を図ろうとしている。反面、通信コストを負担するとなると二の足を踏むメーカーも少なくない。ある程度の規模の製品でないと通信料を包含できないだけでなく、定額サービスとしてユーザーが支払いを許容するような納得感が必要になるからだ。

 そのような中、接続方法の1つとして注目されているのが、LPWAネットワークだ。LPWAとはLow Power Wide Area(低消費電力・広域)の略で、主にセンサーから取得するような数百バイト程度の少量データを、低速かつ安価に送信するのに適したネットワークとしてさまざまな業界から注目を集めている。

 多くの場合、免許不要帯域を用いており、既存の移動通信網(LTE、3Gなど)と同様に、1基の基地局で半径数kmレベルの広域をカバーすることができる。日本では、複数あるLPWAの方式の1つである「LoRaWAN」について、ソラコムが同事業への参入を2016年5月に発表している。また韓国では、2016年7月に韓国全土での敷設を完了し、容量に応じた月額定額料金プランによるサービス展開が始まっている。

 以下の表を見てもらえば分かるように、LPWAは非常に安価に提供できる点が大きなポイントとなっている。ただし前述の通り「少量データ」を間欠的に送信するような用途に適した回線であり、セルラー網のように動画など大容量データを継続的に送るような用途には適さない。例えば「通知」や「テキストデータの送信」といった、シンプルな用途が想定されている。このような回線の特質から、月額料金ベースではなく、ソリューションの中にその通信費を組み込んで展開する例も少なくない。

SK TelecomのLPWAネットワーク「LoRaWAN」の料金体系 SK TelecomのLPWAネットワーク「LoRaWAN」の料金体系。1ウォン=0.1円とすると、月間100Kバイト上限の「Band IoT 35」で月額35円となる(クリックで拡大) 出典:SK Telecom

 例えば、米国で燃料配達を行っているEnerTracは、これまで、各家庭を年間6回訪問してタンクの燃料がどれくらい残っているかを確認し、必要に応じて宅配を行っていた。この場合、訪問に掛かるコストとして1軒につき、1回当たり70米ドル、年間で420米ドルの費用が発生していたという。この費用を削減するため、タンクに1個40米ドルのセンサーを取り付け、月額2.50米ドルでモニタリングを実施し、燃料追加が必要になった時に訪問するようにした。その結果、1軒当たりの訪問件数は平均年4回に減少した他、運用コストも約30%削減できたという。

 また、ホームセキュリティ企業のSecuritas Directは、これまで、異常発生時のアラーム通知をGSM(2G)回線を通じて行っていたが、安価な電波妨害デバイスを使われてアラームが機能しない事態が多発していた。対策として、アラーム装置のバックアップ回線にLPWAを導入し、GSMが電波妨害された場合には自動的にLPWAに切り替えて管理センターにアラームを通知できるようにした。バックアップ回線は使用頻度が少ないことから、通常のセルラー回線を利用するにはコストが掛かる。よって「通知」という多くのデータ量を必要としない情報を送信するにはLPWAで十分なのだ。

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