当時の従業員の年齢は棟梁が60代。その次が40代。後継の職人を育てようと中途採用を試みた。即戦力にはなるが、愛社精神をもって働いてくれる人には、なかなか出会えなかった。一概には言えないが、職人の世界にはすぐ辞めていく人も多い。だまされたことや、つらい思いをしたこともあるそうだ。
そんな吉武工務店に、初めて新卒の大学生が入社したのも同友会がきっかけだ。中小企業の経営者が、学生に自社の魅力をPRするイベントがあって参加した。吉武工務店の「夢を語る企業説明会」にも大学生が来てくれた。
吉田社長は、説明会で自社の内情や企業理念、何よりも「自分は建築の仕事が好きだ!」という思いを率直に伝えたそうだ。
社員が会社に拘束されるのは、勤務時間だけではない。通勤時間も仕事のために費やす時間だし、休憩時間も社内で過ごす。朝起きて仕事に行こうという時に、何となく「嫌だな」と思うか、「さぁ、行こう!」と思うかで、仕事に対するモチベーションは大きく違ってくる。
社内が気持ち良く働ける空間であれば、作業場とは別にリフレッシュする空間があれば、自然と愛社精神が生まれ、生産性も上がる。建築の仕事は、空間のデザインで人が生きていくための活力やものを与えられる。
採用の条件だけではなく、そんな風に“建築業の面白さ”を伝えると、「一緒に働きたい」という学生が現れた。
学生が就職を望んでくれても、「名前を聞いたこともない会社で大丈夫か?」とご両親が心配する。だから、内定した学生の実家にあいさつへ行き、年末の餅つきなど社内行事にも誘い、会社を知ってもらうように努めたという。
新卒の新入社員は、会社に大きな変化を与えた。
経営者として、中途採用で入ってきた社員には即戦力としての期待が大きかった。しかし、新卒の社員はそういうわけにはいかない。彼らにとって、社会に出て最初に出会う大人が自分たちということになる。
そう思うと、社会人の心得を1つ1つを教えていかなければならない。彼らをこれまで育ててきたのはご両親だが、社会人として育てていくのは自分たちだと思うと、自然と襟をただす気になる。
古参の職人さんも、朝のあいさつからして変わった。会社の雰囲気が、キビキビとしたそうだ。
丈彦氏は、新入社員の彼に「これからは、毎年新卒の社員を採る」と約束したそうだ。職場に同僚がいないと、仕事をしていても楽しくない。彼と一緒に働く仲間を増やしていくと決めた。
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