MONOist これまでのデンソーにおけるモノづくりの生産性向上の取り組みはどういったものでしたか。
加藤氏 当社の工場では1996年ごろからIT活用による見える化に取り組んだ。主に、ロット単位での管理にITを利用しており、1つの工場で完結するものだった。なぜ工場全てで共通化していなかったかというと、先述した通り、さまざまな部品を取り扱う当社では、各工場で生産する製品が違うからだ。それぞれの工場で生産する製品に合わせてさまざまなカイゼンを進めてきた。
そういった取り組みを進める中で、2011〜2012年ごろに工場設備のPLCの性能が大幅な向上を見せ始めた。そこで、DP-Factory IoT革新室が発足する2年前の2013年ごろに、工場内の情報活用のレベルアップに向けた検討が始まった。さらに、近年のIoTトレンドを支える潮流である通信機器の伝送速度向上も重要な要素になっている。
これらの技術進化を背景に、各工場における生産性向上に向けた取り組みやノウハウを集約する環境が整ったと判断した。世界中の(デンソー社員)みんなの知恵を集められるようにするのがDP-Factory IoT革新室の役割だ。
MONOist そのDP-Factory IoT革新室では、現在どのような施策を進めていますか。
加藤氏 製造業で最も反応よく対応できるのは現場の人たちだ。例えば工場では、現場の人たちに効率よく情報を伝えるために“アンドン”(トヨタ生産方式の生産状態報告システムのこと)がある。これと同様に、企業の事業運営に役立つ“会社アンドン”や、各従業員が自身の業務のカイゼンの役立てられる“個人アンドン”を展開して、情報を現場の人たちにしっかりと落とし込めるようにしたい。
機械、モノ、コトから出てくる情報を、個人、工場、会社(事業部)にリアルタイムで流したい。月次とかでは遅すぎる。もちろんこれらの情報はグローバルで集約できていないといけない。
情報を集約し、リアルタイムで有効活用するには、ディープラーニングや人工知能(AI)の技術が必須になる。DP-Factory IoT革新室でもそれらの活用を見据えている。
ただし、その前に必要なのがデータの標準化だ。例えば「A」の持つ意味合いが各工場で異なると、ディープラーニングやAIを使っても活用は難しい。そこでインデックシングや標準化を当社の中で進めており、これに今一番力を入れている。
MONOist ダントツ工場の達成に向けたロードマップについて教えてください。
加藤氏 DP-Factory IoT革新室のメンバーは、国内100人、海外200人、グローバルで300人。このメンバーで、現在は先に述べた標準化に取り組んでいるところだ。
2018年から工場間の情報のやりとりを始め、2020年からグローバルに展開する130の工場をつなげる。2020年に、全工場で押し並べて2015年度比で生産効率を30%向上することが目標だ。
デンソーの130の工場は個別最適でやってきた。1つの工場で完結する形で突き詰めてきた成果について、これからは情報や知恵の集約を通してシナジーを出していく。シナジーに重点を置いたDP-Factory IoT革新室の活動と、工場の予知予兆管理の効果なども加えれば目標の70〜80%に貢献できると考えている。残りの20〜30%は、これまで行ってきた個別の生産性向上活動の継続によるものだ。
MONOist DP-Factory IoT革新室が発足して約1年が経過しますが、これまでの手応えは。
加藤氏 現時点でははっきりとした成果は出てない。標準化作業を鋭意進めている段階だ。
MONOist 技術力のある国内工場はプライドが高く、標準化作業に協力的でない場合もあるのではないでしょうか。
加藤氏 そういった高い技術力を持つ工場には「グローバルマザー」になってほしいと説明している。“マザー”なのだから、“子どもたち”に分かりやすく説明して大人になってもらえるよう標準化に協力してもらう。
成熟した工場でも、“子ども”の工場でも、そこには何らかの面白い取り組みがある。その取り組みを互いに知るために、モノや情報をつなげるには、人をつなげ、志(こころざし)をつなげなければいけない。
グローバルマザーの話とも関連するが、国内で作ったものを海外に押し付けても使ってもらえない。工場でIoTを活用するには、そのためのIT基盤が必要だと言われているが、その前にまず志をつなげることが重要だ。DP-Factory IoT革新室の標準化作業は、人と志をつなげるための活動と思ってもらっていい。
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