学習処理と推論処理を同一の機器で行う必要はありません。大量のデータ読み込ませる必要のある学習処理は高性能なGPUサーバ上で行い、その結果、作製された学習済みモデルを利用して組み込み機器に搭載されたJetson TX1上で推論処理を実行するという実装も可能となります。ここでは、このフローから導ける活用法について説明します。
例えば、さまざまな製品画像を認識できるニューラルネットワークを学習させて、倉庫ロボットを作ることを考えてみましょう。
完成したこのロボットは、自律的に倉庫を移動し、棚や箱の中の各製品を識別することができます。しかしある日、今まで扱っていた製品とは全く見た目の異なる製品が登録されて倉庫内で扱われるようになったとしましょう。
ロボットはこの製品を扱うことが出来なくなってしまいますが、ここで解決方法があります。認識できなかった製品のカメラ画像をサーバに送り、サーバ側では、この製品を含む新たなデータセットを利用して再度学習処理をまわし、より賢くなった学習済みモデルを作ります。アップデートされた学習済みモデルは、倉庫内の全てのロボットにネットワーク配信され、これによって全てのロボットがより賢くなり、新しい製品も扱えるようになるのです。
ディープラーニングを有効活用できる考えられる分野は多岐にわたります。
ここでは特に製造業・ものづくりの分野での応用可能性を見ていきましょう。最初に思い付くのは、工場のラインで行う外観検査への応用です。
IMAGENETコンテストの結果からも分かるように、ラインのカメラが得た画像から不良部品を認識するタスクにおいても、従来のコンピュータビジョンの手法で人が1つずつ組み立てたアルゴリズムより、学習したニューラルネットワークを利用して認識させる手法のほうがより高精度かつ、汎用性を高く保つことが期待できます。
フィンランドのラッペーンランタ大学では、更にカメラ画像だけではなく複数のセンサー情報を利用して、高張力鋼の溶接プロセスにおいて溶接の失敗を発見し修正するシステムの研究が行われています。ガスシールドアーク溶接の品質に影響する多数の変数(溶接電流、放電電圧、ワイヤー繰り出し速度、移動速度、溶接ガンの位置)を、ニューラルネットワークを利用して結果品質が一定範囲に収まるようにコントロールするというものです。
日本で有名な応用例の1つはPreferred Networksとファナックが協力して実現した、ピッキングロボットの事例でしょう(熟練技術者のスキルを8時間で獲得、ファナックが機械学習ロボットを披露)。ロボットが「バラ積みされた部品のどこを空気吸引でつかむべきか」を、自分で取得した大量の画像データ(とその結果)を利用して学びとります。
十分なデータを利用して学習させたニューラルネットワークは、従来の熟練エンジニアがコーディング・チューニングした結果に匹敵する性能を達成しました。チューニングの自動化や、複雑な形状への対応の可能性も広がり、まさに工場機械のスマート化を予見させる事例です。
工場・倉庫のスマート化を推し進める取り組みとして、「Amazon Picking Challenge」というコンテストがあります。コンテストにおいて中部大学の藤吉先生らが率いるチームは、さまざまな照明の変化や商品が隠れていたり、ラップにかけられていたりするようなバリエーションにも対応できるようにするため、ディープラーニングの手法を利用して把持位置を学習させました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.