三菱自動車が燃費不正問題に関する3度目の会見を開いた翌日、日産自動車は三菱自動車に2370億円を出資することを公表した。ただ、社内の指示系統や、ユーザーや販売店らを対象とした補償など燃費不正問題で明らかになっていない点は多い。不正の核心について「“高速惰行法”などという言葉は存在しない」との指摘も飛び出した。
たった一晩で、ここまで大きく潮目が変わるとは――。2016年5月12日、午後4時。JR横浜駅近くの貸会議室「TKPガーデンシティ横浜」6階にある「ホール6A」は、在京テレビ局や新聞社、通信社の記者で超満員となった。
この日、日産自動車は午後3時15分から2015年度の決算会見を開く予定だった。ところが、午後2時半にいきなり「決算報告を“後倒し”して、三菱自動車と共同会見」との知らせが日産自動車広報部から発信された。決算会見の会場前で順番待ちをしていた筆者を含めたメディアは、その一報を聞いて横浜駅周辺を大移動するというドタバタ劇となった。
到着した場所は、「事の重大さ」とは不釣り合いな手狭な会場だった。筆者は記者席の最前列の中央に座り、日産自動車 最高経営責任者(CEO)のカルロス・ゴーン氏と三菱自動車 CEOの益子修氏の目をしっかり見ながら、彼らの話を聞いた。
会見の趣旨は「日産自動車が三菱自動車の発行済み株式34%を2370億円で取得する予定。目的は両社にとっての戦略的アライアンス」というものだ。アライアンスの詳細について、両CEOは「ASEAN市場を重視した上で、SUVやピックアップトラックのプラットフォームを共通化」や「電気自動車の共同開発」といった、当たり障りのない事業の可能性を示唆するに止めた。
また、両社の“なれ初め”については「軽自動車の共同開発が2011年から始まったのを基点に、さらなる事業連携についてCEOどうしの個人的な会話の中でも何度か話し合った。そして、今回の燃費不正問題がきっかけとなり、さら深い関係を考慮した」と“自然な流れ”を強調した。
このように儀式化した45分間の共同会見。その場の雰囲気は祝賀ムードが強く、前日の11日夜に三菱自動車が国土交通省で行った会見での「犯人探し」と「経営責任追及」のイメージとは、あまりにも懸け離れていた。
会見後、筆者が旧知の経済メディア関係者らに話を聞くと、その多くが「これで、一連の燃費不正問題の報道熱は一気に冷めるだろう」と、ぼやいていた。
一連の三菱自動車の燃費不正問題が明るみに出たのは、2016年4月20日のことだった。
同社が国土交通省に対して、「軽自動車の4車種(「ekワゴン」「ekスペース」「デイズ」「デイズルークス」)の型式指定の申請において、実際より燃費をよくみせるため燃費測定に必要な走行抵抗値の計測で不正行為があった」と報告。それを受けて記者会見を行った。
その中で燃費測定のための走行抵抗値の計測で、同社では長年に渡って国が定める「惰行法」ではなく「高速惰行法」を使い、その結果を惰行法に換算して申請していたと説明。高速惰行法は国内向けの複数車種でも使われていたことを明らかにした。さらに同社は、高速惰行法で測定した走行抵抗値のうち、本来報告すべき中央値よりも燃費に有利な低い値を選んで申告していた。
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