HILSは、制御システムの機械系/電気系をコンピュータシステムに置き換えることによって実現できます。HILSと機能ブロックの対応は図7のようになります。コンピュータ上に作成するHILSプラントモデルは、制御システムの機械系/電気系の特性を実現することが求められます。
重要なことは、ECUから見た制御システムが、動的特性を含めて実システムと同じであることです。ECUは、燃料調節装置に出力してエンジン回転数を変化させ、その状態が回転センサー信号を通じてフィードバックされます。ここでHILSは、ECUの出力によって変化するエンジン回転数を計算して、回転センサー信号をインタフェース回路に発生させます。
このように、HILS上に、ECU出力⇒プラントモデル⇒ECUへのフィードバック信号⇒ECUの制御ループを作ります。
さて、ここでHILSの歴史を見ておきましょう。
制御システムの開発のために、システムの振る舞いを実時間で動作するコンピュータで実現する手法をリアルタイムシミュレータといいます。リアルタイムシミュレータは、アナログコンピュータが主流であった1950年代かそれ以前から、フライトシミュレータや電力系統、大規模な機械装置の制御などで使われていました。
その後1960年代にデジタルコンピュータの発達に伴って、アナログコンピュータとデジタルコンピュータを組み合わせた、ハイブリッドコンピュータを使ったリアルタイムシミュレータが使われるようになりました。自動車においても1970年に、車体運動のリアルタイムシミュレーションの例※1)があります。
その後1970年代後半に自動車でもマイクロプロセッサを使ったECUがエンジン制御に適用されるようになり、1980年代になるとエンジン以外の制御にECUが広く適用されるようになりました。
1980年代後半にはコンピュータが小型化され、試験計測に利用しやすいワークステーションやパーソナルコンピュータが普及してきました。これらを利用して個々の制御システムの開発に合わせて、ECUのテストにリアルタイムシミュレーションを利用したHILSが、開発/適用されるようになりました※2)。
1990年になると一般販売を目的としたHILSシステムが、 I/O回路やプラントモデル、マンマシンインタフェース用のバーチャルな運転コンソールをパッケージ化して市販されるようになりました※3)※4)。
1990年代後半になるとエンジンや車体のプラントモデル、2000年代には自動テストシステムツールが登場し、現在のHILSに至ります。
今回は、HILSを考える上での前提となる電子制御システムとのかかわりからHILSとは何かを書きました。次回は、どのようにすればコンピュータ上にHILSを作ることができるのか、HILSの概要について考えてみたいと思います。
※1)SAE Technical Paper 700155“A Hybrid Simulation of Vehicle Dynamics Subsystem”by N.O.Tiffany
※2)SAE Technical Paper 870336“Real Time Simulation for Application to ABS Development”by Deborah J. Kemph Delco-Mcraine ABS System Group and others
※3)平成4(1992)年3月日立造船技報第53巻第1号“リアルタイムシミュレータ(HISIM-3000の開発と適用”関野晋他
※4)dSPACE MAGAZINE 2008“Dr.Herbert Hanselmannインタビュー”
高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」
1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。
HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。
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