HILSを考える前に、ECUが制御するシステムを考えてみましょう。簡単に理解できるように、ここではエンジンと発電機が直接つながる図3のエンジン/発電機システムを考えることにします。
エンジンは、燃料供給量を制御することにより出力を加減できる装置です。エンジンの燃料供給量を制御する装置とは、スロットルバルブや燃料噴射装置のことを指します。ここでは細かいことは後回しにして、燃料レバーを操作することによりエンジントルクがゼロ〜最大値まで加減できる装置と理解してください。
エンジンがトルクを発生して、負荷の発電機を一定回転数で回転させる場合の力学を考えます(図4)。
エンジン回転数が一定の状態とは、エンジントルクと負荷トルクが釣り合っている状態です。エンジントルクは、エンジンが発生する回転力です。負荷トルクは、負荷が回転を止めようとする力です。何も仕事をしていない場合は、回転摩擦力が働きます。エンジントルクが負荷トルクを上回ると、余剰のトルクによってエンジンと負荷の回転数が増加します。回転数の増加は余剰トルクに比例し、回転運動の運動方程式で表すことが出来ます。
Te−Tl=I×dω/dt
ただし、Teはエンジントルク(Torque Engine)、Tlは負荷トルク(Torque Load)、Iはエンジンと負荷の慣性モーメントの和、ωは回転速度で、dω/dtは回転加速度です。
この装置を回転数一定で運転することを考えます。
エンジン回転数が目標値より低い場合は燃料レバーを燃料を増やす方向に動かし、エンジン回転数が高い場合には燃料を減らす方向に動かします。回転数計を凝視して数rpm程度の回転変化を見分け、頻繁に細かく燃料レバーを動かして回転数を調節することになります。
この操作を上手く行うには熟練が必要です。いきなり実際のエンジンを操作すると少しレバーを動かすだけでエンジン回転数が大きく変化します。油断するとエンジンが止まったり、逆に回転数が上がり過ぎたりして、エンジンや発電機が壊れてしまうかもしれません。回転数一定の制御をするには、熟練した操作員が1人、かかりきりで操作する必要があります。
もし、人に代わって操作をしてくれる装置が有れば、操作員は目標回転数を設定し、後は装置に任せておけば、一定回転の運転が可能となります。このような装置のことを回転制御装置と呼び、ECUはマイクロコンピュータと電子技術によってこの課題を実現するものです。ECUはエンジンの回転数を見張って、燃料レバーを増減してくれます。発電システムのECUに求められる基本的な制御機能/性能要件には、以下の項目が考えられます。
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