東京医科歯科大学は、加齢に伴う薄毛・脱毛の仕組みを解明したと発表した。幹細胞が老化してフケ・垢とともに皮膚表面から脱落し、毛を生やす小器官が段階的にミニチュア化(矮小化)することで引き起こされるという。
東京医科歯科大学は2016年2月5日、歳をとると毛が薄くなる仕組みを解明したと発表した。加齢に伴う薄毛や脱毛は、幹細胞が老化して維持できなくなり、フケ・垢とともに皮膚表面から脱落していった結果、毛を生やす小器官が段階的にミニチュア化(矮小化)するために引き起こされる。同大学難治疾患研究所幹細胞医学分野の松村寛行助教らの研究グループによるもので、成果は、同日付の米科学誌「Science」に掲載された。
体内の臓器は加齢によって次第に小さくなり、機能も低下する。皮膚も加齢に伴って次第に薄くなり、毛も細くなって減っていく。しかし、実際に生体内でどのような変化が起こっているのか、細胞運命や細胞動態の詳細は不明で、組織や臓器レベルでの老化にプログラムが存在するのかは明らかではなかった。
同研究チームは、毛を生やす小器官である毛包が、幹細胞を頂点とした幹細胞システムを構築していることと、マウスにおいても加齢によって薄毛が見られることに注目し、マウスの毛包幹細胞の運命を生体内で長期に渡って追跡し、ヒトの頭皮の加齢変化と合わせて解析した。
その結果、毛包幹細胞は毛周期ごとに分裂するが、加齢に伴って自己複製しなくなり、毛を作る細胞を生み出す代わりに、表皮の角化細胞へと運命を変えたのち、皮膚表面からフケ・垢として脱落していくことが分かった。これによって、毛包幹細胞プールとそのニッチが段階的に縮小し、毛包自体がミニチュア化するため、生えてくる毛が細くなって失われていくことが明らかになった。この毛包のミニチュア化は、男性型脱毛症に特徴的な変化であると考えられてきたが、生理的な加齢変化として進行することが分かった。
また、毛周期ごとに毛包幹細胞が分裂して自己複製し、毛になる細胞を供給するが、加齢に伴って、その際に生じたDNAの傷を修復するための反応が長引く細胞が現れる。マウスによる実験で、このような毛包幹細胞では、毛包幹細胞の維持に重要な分子であるXVII型コラーゲンが分解され、それによって幹細胞性を失い、表皮角化細胞へと分化するよう運命づけられることが分かった。なお、ヒトの頭皮の毛包においても同様の現象が確認された。さらに、マウスの毛包幹細胞でXVII型コラーゲンの枯渇を抑制すると、一連のダイナミックな加齢変化を抑制できることが分かった。
以上のことから、組織・臓器に「幹細胞を中心とした老化プログラム」が存在することが初めて明らかとなった。この成果は、老化の仕組みについて新しい視点を与えると同時に、脱毛症の治療法の開発や、その他の加齢関連疾患の予防や治療につながることが期待できるとしている。
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