自動運転に力を入れているのが自動車メーカーだけでないのは周知の通りだ。
中でもクルマ分野における人工知能の活用に注力するNVIDIAは、注目を集めるプレーヤーの1社だろう。前回のCESでNVIDIAは、ディープラーニングを活用した自動運転車開発キット「DRIVE PX」を大々的に発表。自動運転車の実現に向けて実証実験などを進めているところだが、今回はDRIVE PXをさらにバージョンアップさせた「DRIVE PX2」を発表した。
NVIDIAの発表によれば、DRIVE PX2は処理能力をDRIVE PXの30倍〜40倍に向上させており、Apple(アップル)の「MacBook Pro」150台分の処理性能を持つ、世界で最もパワフルな人工知能であると強調している。特にDRIVE PX2は、クルマの形状(セダン、SUVなど)や種別(一般車両、救急車両など)の他、ヒトの手足や標識、動物などまで認識できるとしており、人間の視覚情報の処理能力に限りなく近づきつつある。
このような取り組みの背景には、NVIDIAが「視覚情報」を自動運転の最も重要な要素としてとらえていることがある。人間が目でみて脳で瞬時に処理するのと同様に、ディープラーニングを活用することにより、カメラなどから得られた画像情報をリアルタイムに認識/判別し、瞬時に処理を行うことで、自動運転を実現できるというのだ。そのために、新たなDRIVE PX2は、莫大な画像データをこれまでよりもさらに高速処理できるようになったことを強調した。このDRIVE PX2を搭載した自動運転車は、2017年にVolvo Cars(ボルボ)から出てくるとのことだ。
NVIDIAが画像にこだわるには理由がある。というのもNVIDIAはもともとゲームなどの画像処理向けのチップ(GPU)を作っていた企業である。そのため、NVIDIAの自動運転に対する取り組みも画像処理が主体となっているのだ。
上記で紹介したもの以外にも、今回のCESでは自動運転の実現に向けた新たな技術が各社から登場してきている。フランスのValeo(ヴァレオ)やBMW、パナソニックなどは、物理的なサイドミラーを使わずに、カメラを用いて死角を含む後方や周囲の情報をモニターに映し出すシステムの研究開発を行っている。このような技術も自動運転への適用を視野に入れている。
事故のない安全な走行の実現を目指す技術が多数でてきているが、最終的な鍵を握るのは、やはりAIだろう。AIはIT企業が注力している分野だが、自動車メーカーも急速にその競争に加わってきている。今後、この流れはクルマのみならずドローンなどにも拡大していくことが容易に予想される。
2016年のCESでAIを強調したのはトヨタとIBMだったが、次回、2017年のCESではさらに多くの企業がAIの進化を披露するだろうと予測しており、今から楽しみだ。
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
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