データ活用の余地について田中氏は9つに分けて説明。マーケティングや営業戦略では、「商品企画や開発」「不具合対応」での製品価値向上、「顧客誘導」や「能動的なカスタマーサポート」による顧客経験価値の強化を挙げた。製造現場では、「需要予測高度化」「SCM最適化」による業務改善/コスト削減、「工場オートメーション促進」や「製造コスト管理強化」での生産革新に活用できるという。そして、新しい価値の創出やビジネスモデルの確立にはテレマティクスデータなどの活用が求められるとしている。
田中氏は、ビッグデータ活用の度合いを情報の統合的な利用と分析のレベルによって4段階に分け、海外自動車メーカーの好事例を示した。商品企画や開発、生産革新の分野ではまだ試行錯誤の段階だ。しかし、リコール対応や顧客誘導、カスタマーサポート、需要予測最適化、SCM最適化では、Ford Motor(フォード)やGeneral Motors(GM)などに代表される米国自動車メーカーが成功している。
これらの好事例と日系自動車メーカーにおけるビッグデータ活用の開きは「大体5年くらい」(同氏)だという。この差は、「米国など海外の自動車メーカーが早い段階で“モノの価値”の限界を感じたこと」によると説明した。顧客経験価値に舵を切り、コネクテッド化に速やかに着手したのが背景にあるという。
ビッグデータ活用の好循環をつくるには、収集/解析のプロセスや、組織や技術に成功要因があるという。
例えば、データの収集では多様な接点からリアルタイムに情報を得る必要がある。米国自動車メーカーは、ユーザーへの利便性提供ではなくデータ収集を目的にテレマティクスユニットを普及させており、かなり高い装着率に達しているといわれている。収集したデータの解析では、外部企業との提携や産学連携で解析技術を高度化。解析結果をサービスに反映させ、顧客経験価値の提供に生かしている。
組織の面では、データ活用の専門組織をグローバル展開することや、専門性の高い人材の登用が成功のカギを握っているという。それだけでなく、収集した情報を全社で横断して統合することが必要になる。
日本の自動車業界は、この全ての段階で出遅れていると田中氏は見る。提言として、ビッグデータ活用に関する全社的な戦略を立てることを勧めた。「会社全体で方針を決めなければ、組織や人員の工面が進まない。その上で専門性の高い人材を活用したり、インフラを整備していったりする必要がある。また、自分の部署だけでなく、部門を横断して収集したデータを活用する姿勢が求められる」と田中氏は日本の自動車業界の課題をまとめた。
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