デロイトトーマツコンサルティングは、記者向けにラウンドテーブルを実施し、日本の自動車業界のビッグデータ活用が遅れていることに危機感を示した。「日本は米国と比べて5年遅れている」(同社)という。
デロイトトーマツコンサルティングは2015年12月7日、記者向けに自動車業界に関するラウンドテーブルを実施した。自動車業界を担当する同社のコンサルタントが登壇し、自動運転によって変わっていくクルマの使われ方や都市計画、自動車業界でのビッグデータ活用の現状などについて解説した。
ビッグデータ活用が重要となっているのは、前提としてIoT(モノのインターネット)があるという。あらゆるものからデータを得られるようになり、活用できるデータの範囲が限りなく広がっていく。しかし、同社執行役員の田中雅史氏は「日系自動車メーカーはビッグデータ活用で出遅れている。今後、巻き返しは厳しい状況だ」と指摘した。
「ビッグデータの活用によってモノづくり、開発のあり方、ビジネスモデルまでが大きく変わる」(田中氏)として、現在、2020年前後、2030年前後と時系列に沿ってビッグデータの用途を示した。
現状では「まだビッグデータの用途はモノづくりの効率化のみ。内部のデータを業務プロセスやコストの改善に生かす用途が中心になっている」(同氏)と見ている。
2020年前後には「顧客経験価値が体現されるようになっている」(同氏)という。自動車メーカーは、モノづくり/販売/アフターサービスの各分野で顧客を起点とした価値提供が求められるとしている。
そして、2030年前後には「“自動車業界”といった既存の業界のくくりがなくなり、新しい価値、新しい産業の時代を迎える」と田中氏は警鐘を鳴らす。ビッグデータを使った新しいビジネスモデルを生み出していくことが必要になるという。
同社が300事例以上を調査した結果によると、海外ではマーケティングの計画や実行、販売などでビッグデータの活用が進んでいる。
製品の価値向上を行う手法として、日系自動車メーカーはプロダクトアウト型で「良いクルマを作ることに集中している」(同氏)。しかし、今後は顧客の要望に合わせてカスタマイズできることが重視されつつあるという。顧客や車両のデータ、開発時点での情報など複数の情報源から得られるビッグデータを収集・解析することにより、従来では定量化が困難だった因子を明確にしてパーソナライズ化し、顧客の満足度を向上する方向に進むとしている。
販売やアフターサービスも、従来は画一的で一方通行のアプローチだった。これに対し、複数の情報源に接しながら購買/所有/維持する行程「カスタマージャーニーマップ」に沿った、よりきめ細かい購買誘導が実現できるようになるという。
今後の事業革新のカギはビッグデータにあり、田中氏は「データプラットフォーム事業を押さえた企業がビジネスを制する」と見る。新しいビジネスモデルを成立させていく上でビッグデータの活用が不可欠になるとしている。
クルマがインターネットに常時接続することで「車両からビッグデータを収集できるようになり、完全自動運転の実現につながる。そして完全自動運転が、カーシェアやタクシー、物流で新しいビジネスモデルを生む」(同氏)。
車両からデータを集める場合、価値を生み出せるレベルのデータ量を確保するには1社では限界があると指摘した。データ量という点では「IT企業や物流事業者、タクシー事業者に分がある。ここにはメガサプライヤも目をつけている。大きなシェアを持つサプライヤであれば、自社のセンサーを搭載する車両から、メーカーのブランドを問わず大量のデータを集められる」と、グーグルやアップルをはじめとするIT企業やメガサプライヤが自動車メーカーの競合に成り得る事実を紹介した。
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