車載分野への浸透広げるARM、大手車載マイコン3社も採用へ車載半導体 ARM インタビュー(1/3 ページ)

スマートフォンや汎用マイコンのプロセッサコアとして最も広く採用されているARM。車載分野では長らく苦戦していたが、ついにルネサス、フリースケール、インフィニオンという車載マイコントップ3の採用にこぎつけた。車載分野での浸透と拡大を着実に続けるARMの取り組みについて、同社のリチャード・ヨーク氏に聞いた。

» 2015年11月11日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 現在、半導体のプロセッサコアIPとして最も広く利用されているのはARMだろう。スマートフォン向けをはじめ、最近ではサーバ向けのプロセッサでも存在感を持ち始めたアプリケーション処理用の「Cortex-Aシリーズ」、ベースバンドプロセッサやSSDのコントローラなどに用いられているリアルタイム処理用の「Cortex-Rシリーズ」、そしてマイコン向けの「Cortex-Mシリーズ」とさまざまな用途で存在感を発揮している。

 そのARMが最も苦戦してきたのが車載分野だ。カーナビゲーションシステムをはじめとする車載情報機器向けについては、最大手のルネサス エレクトロニクスが2011年から独自コアをCortex-Aシリーズに切り替えた「R-Carファミリ」を投入したことによって、ほぼ攻略は完了している。

 ただし、車載情報機器以外の車載システムについては、一気に採用が広がるということはなかった。これは、いわゆる走る/曲がる/止まるといった自動車の制御系システムの開発サイクルが3〜5年と長く、各自動車メーカーから認定を受け、量産に用いられるようになるのにも時間がかかるためだ。現時点で、車載プロセッサにおけるARMコアのシェアは10%以下にすぎない。

 そんな苦戦をものともせずARMは、自動車メーカーやティア1サプライヤ、半導体メーカーに対する活動を続けてきた。そしてその苦労は花開きつつある。車載マイコン2位のFreescale Semiconductor(フリースケール)がARMの本格採用を発表(関連記事:フリースケールが車載マイコンをARM化、ソフト開発重視のトレンドに対応)。STMicroelectronics(STマイクロ)も、Cortex-Rシリーズの最新アーキテクチャとなる「ARMv8-R」を車載マイコンに採用する方針を示した(関連記事:STマイクロの車載マイコン、PowerからARMv8-Rへ)。

 そこで、ARMのバイスプレジデント エンベデッド セグメント・マーケティングを務め、車載分野を担当しているRichard York(リチャード・ヨーク)氏に同社の取り組みについて聞いた。



MONOist ARMは長年車載分野に貢献する意志を示してきた。2015年に入って大きな成果が出始めている。

ARMのリチャード・ヨーク氏 ARMのリチャード・ヨーク氏

ヨーク氏 ARMにおける車載ビジネスの歴史は約25年にも及ぶ。ここ10数年については成功を収めていると言っていいだろう。2015年にもさまざまな発表があったが、それらも長年の活動の結果が目に見える形で実を結んだものだ。

 車載プロセッサの市場規模は2014年の1年間で25億個。車両1台当たりに換算すれば約30個になる。高級車になると1台当たり数百個になる場合もある。われわれは、車載プロセッサ市場が2024年に75億個まで増えるとみている。搭載されるICもより複雑なものになっていくだろう。ARMのプロセッサコアを使えば、その複雑化への対応が容易になる。

車載プロセッサ市場の推移 車載プロセッサ市場の推移。ARMは、2014年の25億個から2024年には75億個に伸びると予想している(クリックで拡大) 出典:ARM

MONOist 車載分野におけるARMへの要求はどのようなものか。

ヨーク氏 この数年間は自動車業界から3つの分野で要求が増えている。1つ目は電動化、2つ目はADAS(先進運転支援システム)、3つ目はドライバーズインフォメーション(DIS)。これらは、システムの高度化に対応するコンピューティングパワーだけでなく、万が一の故障時にも事故につながらないようにする機能安全も必要であり、ARMはどちらについても開発投資を行っている。

 例えばADASでは、車載カメラを複数個使うようになり、それらの映像にさまざまな処理を加えることになる。DISについては、スマートフォンやデジタルTVのようなユーザー体験が求められるだろう。スマートフォンやデジタルTV向けのプロセッサではARMコアが90%のシェアを獲得しているので、DISにもそれらの知見を反映できるはずだ。

 電動化では、モーター走行だけになるというよりも、エンジンやトランスミッション、回生ブレーキなどとの組み合わせになる。こういったマルチパワーソースの制御には、コンピューティングパワーが必要であり、ARMコアは有力な選択肢になる。

 低消費電力に対する要望も大きい。数年前まで車載分野は消費電力をあまり気にしていなかったが、ハイブリッド車のような電動システムを用いる車両の市場が拡大し始めてからは、特にティア1サプライヤから消費電力の低減が求められるようになった。モバイル機器向けで実績のあるARMは、低消費電力性能でも優位性がある。

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