77GHz帯ミリ波レーダーがどんどん安くなる、「単眼カメラよりも安価」車載半導体(2/3 ページ)

» 2015年11月06日 09時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

ミリ波レーダーの主流は77GHz帯

 現在、ミリ波レーダー向けMMICの市場はインフィニオン、STMicroelectronics(STマイクロ)、Freescale Semiconductor(フリースケール)の3社でほぼ寡占されている。シェアだけで見るとインフィニオンとSTマイクロが拮抗していて、フリースケールが追う立場だが、「高度な技術が求められる77GHz帯ミリ波レーダー向けのMMICはインフィニオンとフリースケールが供給しており、STマイクロは24GHz帯ミリ波レーダー向けだけだ」(ボナフェルド氏)という。

 また同氏は、24GHz帯ミリ波レーダーが、4GHzという高帯域(UWB)での利用が欧州で制限される方向にあることや、77GHz帯ミリ波レーダーを使えば現在の24GHz帯ミリ波レーダーのアンテナサイズを3分の1にできることなどを指摘し、今後のミリ波レーダーで主流になるのが77GHz帯であることを示唆した。

 ボナフェルド氏が今後の主流になると強調する77GHz帯ミリ波レーダーだが、かつてはGaAs(ガリウムヒ素)ベースの個別ICを多数組み合わせることで実現していた。もともとは人工衛星向けに利用されていた技術だったが、GaAsウエハーが100mmサイズのものしかなく、個別ICを多数組み合わせなければならないこともあって極めて高価だった。

 例えば、1998年にDaimler(ダイムラー)が発売した「Sクラス」のオプションとして77GHz帯ミリ波レーダーを用いたアダプティブクルーズ機能が採用されたが、その価格は2500ユーロだった。

 これに対して、MMICの高機能化と高集積化を果たすためにインフィニオンが導入したのがSiGe(シリコンゲルマニウム)プロセスだ。まず、SiGeウエハーは、100mmサイズまでだったGaAsウエハーより大きい200mmサイズまで対応している。そして、ミリ波レーダーを構成するICの数が、GaAsベースでは8個だったものを、SiGeベースでは2個に集積することができた。「2009年に開発した第1世代のSiGeベースのMMICによって、GaAsベースのものよりシステムコストを30%削減できるようになった」(ボナフェルド氏)という。

GaASベースのMMICとSiGeベースのMMICの比較。ダイの個数が8個から2個に削減されている(クリックで拡大) 出典:インフィニオンテクノロジーズジャパン

 実際に、このSiGeベースのMMICを用いたミリ波レーダーはAudi(アウディ)の「A4」に採用され、運転支援システムのオプション価格は約1000ユーロまで下がっている。

 ただし第1世代のSiGeベースMMICは、排熱効率を良くするためにベアダイをプリント基板にそのまま実装しており、クリーンルームが必要など組み立てコストが高かった。この課題を解決したのが、新たなパッケージ技術である「eWLB(Embedded Wafer-Level Ball Grid Array)」の採用である。eWLBを採用した第2世代のSiGeベースMMICは2012年に導入された。「第2世代では一般的なプリント基板実装技術を利用できるので、第1世代と比べてさらにシステムコストを30%削減できる」(同氏)としている。

第1世代のSiGeベースのMMICはベアダイを使用していたが、第2世代では新たなパッケージ技術「eWLB」を採用した(クリックで拡大) 出典:インフィニオンテクノロジーズジャパン

 第2世代のSiGeベースMMICを用いたミリ波レーダーは、Volkswagen(フォルクスワーゲン)の7代目「ゴルフ」に採用された。運転支援システムのオプション価格はさらに下がり、約500ユーロになった。2014年7月発売の「smart」ではさらに価格低減が図られ、約250ユーロになっているという。

 採用が急拡大したことにより、第1世代と第2世代のSiGeベースMMICの累計出荷数は約5年間で1000万個を達成した。ボナフェルド氏は「次の1000万個の出荷は1年間で達成できるだろう」と意気込む。

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