商習慣の違いを乗り越え、サプライチェーンを最適化する“ものさし”生産管理の世界共通言語「APICS」とは(2)(3/6 ページ)

» 2015年10月23日 09時00分 公開

サプライヤー泣かせの日本型VMI

 VMI(ベンダーマネージドインベントリー)は、日本では一般的にサプライヤーが顧客指定倉庫に製品在庫を補充し、出荷されるまでサプライヤー資産で保管するという仕組みを指す。サプライヤーは出荷後やっと請求書を発行でき、現金化に関しては、ここからさらに月末締め数カ月先といった、キャッシュフローを遅らせる商流となっているといえる。それでは、APICSディクショナリーのVMI定義はどうなっているのだろうか。

VMI: Vendor-managed Inventory

A means of optimizing supply chain performance in which the supplier has access to the customer’s inventory data and is responsible for maintaining the inventory level required by the customer. This activity is accomplished by a process in which resupply is done by the vendor through regularly scheduled reviews of the on-site inventory. The on-site inventory is counted, damaged or outdated goods are removed, and the inventory is restocked to predefined levels. The vendor obtains a receipt for the restocked inventory and accordingly invoices the customer.


ベンダー管理在庫

 サプライチェーンの性能を最適化する手段。サプライヤーは、顧客の在庫データを参照し、顧客が求める在庫水準を維持する責任を有する。ベンダーが、定期的に計画された在庫棚卸を通じ、補充を行うプロセスによって、実現される。実在庫がカウントされ、損傷を受けた商品や期限切れの商品は取り除かれ、在庫はあらかじめ決められた水準まで補充される。ベンダーは、補充された在庫の受領書を受け取り、それに従って顧客に請求書を発行する。

 ここで定義されている様に、グローバル標準では在庫は顧客在庫であり、顧客が在庫水準を事前に計画し、サプライヤーは計画に基づく商品補充に責任を持つ。サプライヤーは補充時点で請求書を発行でき、よってその時点で売掛計上となり、キャッシュフローがよどみなく回るという仕組みになっていることが分かる。

 日本型VMIは、モノと情報の流れは同じだが、お金の流れが日系特有の商流となっている。これを知らずに海外倉庫設置時に日本的VMIを押し通すと、海外サプライヤーから反発を食らうことは目に見えている。

 その他、物流現場の末端では、いまだ標準化ができない百貨店の値札・伝票フォームへの対応や、東京湾内(東京・川崎・横浜・千葉港)の輸入コンテナ物量のバランスの問題など、独特なサプライチェーン運営が多数観察できる。それが最終的な競争力につながり企業価値を高めるものであればよいが、単なる個別最適の商習慣であることを認識できず、海外でのサプライチェーン構築を押し進めてしまうと、現地での事業展開に失敗することになる。まずは、グローバルで適用されているSCMを理解した上で、自身のサプライチェーンと比較し何か“おかしな点”がないか点検することから始め、本当に最適な仕組みを考え、海外のサプライチェーン体制作りに取り組むべきだろう。

基準となる“ものさし”の必要性

  当然のことながら、日本だけではなく海外各地域でも“おかしな点”はたくさんある。特にアジア各国では多言語、政治、宗教、多民族、所得格差や教育格差など日本では想像できない多種多様な環境状況があり、各国の特徴をおさえて海外進出やサプライヤー開拓を行う必要がある。ただし、これら多数存在する“おかしな点”を詳細に観察してみると、日本のように社会的商習慣として成り立っているものとは違い、コンプライアンス面など社会的成熟度の低さや教育格差などによる個人のばらつきに起因するものが多いといえる。

 これらの雑多な国や地域とサプライチェーンを構築し最適化していかなければならないことを考えると、この“違い”を認識するための基軸や本来のあるべき姿を追求するための何らかの“ものさし”となるグローバル基準が必要になる。その“ものさし”として世界で多く採用されているのが、「APICS」というわけだ。

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