こうした各社の思惑を吹き飛ばしてしまったのが、「AWS IoT」である。
概略はこちらの記事にあるし、AWS IoTを提供するに至った背景は、同社でモバイルとIoTを統括する担当副社長 マルコ・アルジェンティ氏へのインタビュー(前編)、(後編)を読んで頂けると分かりやすい。
このAWS IoTの発表に先立つ2015年3月、AmazonはクラウドベースのIoTプラットフォームを提供する「2lementry」を買収しており、これをベースにAWS IoTが構築されたとみられる。AWS IoTは「Device Gateway」というサービスと「Rule Database」、それとデバイス情報を格納する「Registry」から構成されるが、このAWS IoTはそこから先にPhoto01に出てきた様なAWSのサービスと連携が容易に行えるようになっている(発表の際にはS3、DynamoDB、Kinesis、Lambdaと連携する事が示されていたが、恐らく他のサービスとも連携可能だろう)。
このAWS IoTには「Device Shadows」という機能も提供される。これはエンドデバイス側に実装され、オフライン時に記録したデータを格納しておき、オンラインになったときに自動的にクラウドへ送り出すというものだ。これによりデバイス側のアプリケーションはオンライン/オフラインを意識する必要が無い。
これだけでも既存のIoT関連ベンダーには脅威であるのだが、もっと脅威なのはまるでAppleのHomeKit並みにエコシステムを作ってしまった事だ。まだAWS IoTはβということでデバイスSDKのプラットフォームとしてはAndroid YunとLinux、RTOSに対応したEmbedded Platform(特にハードウェアは指定されていない)向けしか「Amazonからは」リリースされていない。こういう書き方をするのは、他からたっぷり出ているからである。
AWS IoTの発表に際して既に10種類のスタータキットが発表されており、いずれも既に購入可能になっている。このあたりはAppleのHomeKit対応の開発キットを各社が争うように提供している構図に良く似ているが、とにかく非常に手軽にAWS IoTに対応したエンドデバイスを構築できる体制が一夜にして出現した形だ。
これは他のIoT団体にとっては非常に都合が悪い図式である。AWS IoT以外ではAWSが使えなくなった訳ではなく、既存IoT標準規格の実装にあたり、クラウドサービスにAWSを使う事には何の支障もない。ただ、そうなると「何でAWS IoTを直接使うのでなく、別の規格を使わねばならないのか?」という議論になることは明白である。なので、AWS IoTでは実現できない「何か」を持ってこない限り差別化は難しいことになる。
Amazonからすれば、自社のサービスを更に広く使ってもらうためにはIoTを取り込まねばならないのは明白だし、であればそのためにより簡単な接続方法を提供するのは実に理にかなっている。付け加えれば2015年3月にマイクロソフトが発表している「Azure IoT Suite」を意識していることは間違いないだろう。
Microsoft Azule IoTの場合、何しろマイクロソフト自身が「Windows 10 IoT」というOSを提供しているから接続性は非常に良い。これに負けないためには、少なくとも接続性の部分だけでも他社に任せて置けないと判断したのは極めて自然である。
これまで紹介してきたさまざまなIoT標準規格は、どちらかというとデバイス側からのボトムアップとでも言うべきものだったが、AWS IoTやAzule IoT Suiteは逆にクラウド側からのトップダウンという位置づけになる。AWS IoTの発表は、ある意味、IoTというマーケットの喰い合いがさらに激しくなった事を象徴するような発表であるともいえよう。
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