Appleの「Homekit」は家庭内の対応デバイスをiOS端末から操作可能にするホームオートメーションシステムであり、「家庭内IoT」を実現する手法といえる。Appleならではの「網」があり、便利だが汎用性に乏しい一面もある。
今回ご紹介するのはAppleの「HomeKit」である。HomeKitは2014年6月に開催されたAppleのWWDC(World Wide Developers Conference)で、iPhone/iPad向けiOS 8の機能の一部として提供されたもので、他にも「HealthKit」「PassKit」が同時に発表されている。
このうちPassKitは電子マネーに関するもので、Appleが2012年に発表したPassbookというMobile Paymentのためのアプリケーションに対応するサービスをPassKitを使って構築できる。これも広義にはIoTの一種と言えなくもないが、今回の話からはやや外れるのでひとまず置いておきたい。
HomeKit/HealthKit共に、基本的にはiOS 8以降(正確にはiOS 8.1以降)で提供される機能であり、さまざまなデバイスに対してiOS 8側から発見(Discover)、構成(Configure)、通信(Communication)、制御(Control)を行うためのスキームである。
HomeKitは名前の通り、家庭内の様々なデバイスをiOSからコントロールするためのもの、HealthKitは様々なメディカルデバイスをコントロールするためのものである。特にHealthKitの場合、メディカルといっても病院で利用されるような本格的なものというよりは、活動量計とかライフログ関係に向けたもの、という方が正確である(だから名前もMedicalKitではなくHealthKitである)。
さて、もう少し深く見てみたい。HomeKitは開発者とユーザー、Appleにとってどうメリットがあるか。まず開発者について。IoTといっても幅広い範囲にわたる訳で、必ずしもiOSと連携しなければいけない訳ではないが、家庭用機器(いわゆるスマート家電を含む家電全般)の場合は、スマートフォンなりタブレットなりとの連携を取れるようにすることがユーザビリティ向上の観点から好ましい。
従来であれば開発者側でiOSなりAndroidなり上で動くアプリケーションを開発して配布する形を取るわけだが、この場合、以下の問題が発生する。
HomeKitを使った場合、これらの問題のかなりの部分が解消する。
まずアプリケーション開発は、Appleから提供されるHomeKit Framework上で作成することになる。ここでは先に書いた通りデバイスの接続や構成、データ通信や制御などに必要なAPIが全て提供されているから、このFramework上で自身のアプリケーションに必要な要件を記述すれば済む。さらに言えば、「どんな要件が必要か」もしっかり決められている(これは後述する)ので、悩む回数が減るメリットもある。当然これはiOS上で動くアプリケーション開発の工数削減につながる。
またHomeKit Frameworkを利用して、かつガイドラインを順守(この話も後述)する限り、よほどの事がなければAppleの審査で落ちる心配は無い。そしてiOSのバージョンが上がって機能が変わっても、ある程度の部分はHomeKit Framework側で吸収してくれることが期待できる(これを信じると裏切られる、というケースが過去なかったわけでは無いが……)。
では利用者から見るとどうか?というと、既存のiOS上のアプリケーションとのシームレスな連携が期待できる。そもそもHomeKit Framework上でアプリケーションが構築されている限り、(よほど変わった作り方をしない限り)既存のiOSアプリケーションと共通の操作性が提供されるから使いやすいし、操作をSiri経由で行うなんて事も期待できるから、iOSに慣れているユーザーにはありがたいだろう。
そしてAppleにとっては、開発者がHomeKitでアプリケーションを構築してくれれば、そのままiOSのエコシステムが充実する事にもなる訳で、ある種の囲い込みが自動的に実現してくれることになるから、申し分ない。
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