ARM「mbed OS」の現在地IoT観測所(13)(4/4 ページ)

» 2015年09月17日 07時00分 公開
[大原 雄介MONOist]
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 さて、2015年6月に開催された「COMPUTEX TAIPEI 2015」でARMは大きく分けて3つの発表を行った。

 1つはCordio Radio IP(Photo04)、IoT Subsystem for Cortex-M Processors(Photo05)、それとTSMCの55nm ULPプロセスを利用しての協業(Photo06)である。最初のCordio RADIO IPは、これを利用する事で(Bluetooth 4.2対応ではあるが)RF一体型のMCUを容易に構築できることになる。必ずしも全てのMCUベンダーがRFに強く、RF統合型MCUをリリースしている訳ではないから、これはそうしたメーカーの福音になりうる。

もともとはSunrise Micro Devicesという、ARMも出資していた企業が開発したSub 1Vで動くCMOS RADIO IPを2015年4月にARMが買収、IPとして提供する形になった Photo04:もともとはSunrise Micro Devicesという、ARMも出資していた企業が開発したSub 1Vで動くCMOS RADIO IPを2015年4月にARMが買収、IPとして提供する形になった
Photo05:これは次の55nm ULPプロセス向けPhysical IPとも絡む話で、MCUを利用する際に必要となるサブシステム向けのIPをまとめて提供する、というものだ Photo05:これは次の55nm ULPプロセス向けPhysical IPとも絡む話で、MCUを利用する際に必要となるサブシステム向けのIPをまとめて提供する、というものだ

 これに加えて、TSMCの55nm ULPに対応したフラッシュコントローラーやパワーマネジメント、基本的な周辺機器類をまとめてArtisan IPライブラリの形(もちろん、ここにはARMのRF関連IPであるCordio IPも含まれる)で入手できるから、これでいきなり55nm世代までプロセスを微細化することができる。

 既存のMCUはいまだに130〜90nm世代を利用する事が多いが、この理由の1つはFlash混載プロセスでないとMCUの製造に難があることであった。これまで55nmは自動車向けMCUには多く利用されてきたが、一般向けMCUへの移行は進んでおらず、メーカー(ルネサスエレクトロニクスなど)によってはこれをスキップして40nmに移行する意向を示しているところもあるが、多くのメーカーはまだ様子見という姿勢である。こうしたメーカーの後押しをしよう、という意向と考えれば良い。

Photo06:これがある意味真打ちの話だが、MCUの55nm世代への移行を強力にサポートする体制をARM自身が打ち出した形だ Photo06:これがある意味真打ちの話だが、MCUの55nm世代への移行を強力にサポートする体制をARM自身が打ち出した形だ

 ではARMにとって製造プロセスが130〜90nmあたりから55nmになると何がうれしいか?チップの最小サイズはパッドエリア(信号ピンを出すための面積)で規定されるから、「プロセス微細化したからダイサイズが半分」には必ずしもならない。基本的に55nmあたりだと、NREや製造コストもそう大きくは変わらないから、必然的にダイサイズは同程度に収まる。ということは、130〜90nm世代に比べて倍以上のトランジスタが利用できる事になる。だからといってMCUコアを複数搭載しても仕方ないので、必然的にSRAMあるいはフラッシュメモリの容量を増やす事になる。これはmbed OSを載せるにあたっての余裕につながる。

 もともとmbed OSの場合、セキュリティまわりのスタックまでも全て搭載すると、現状でも32KB SRAMでは辛く、64KB程度必要とされていた。64KBというのはそう多いとは思えないかもしれないが、普及帯のMCUのSRAM容量が32KB前後であることを考えると、かなり厳しい数字である。これが55nm世代で容量が倍増すれば、mbed OSの実装が容易になることになる。加えてCordio IPを搭載してくれれば、Bluetooth LEのスタックはmbed OSで標準的に提供されるから、すぐにでもmbed OSが利用できる事になる。Photo05にもあるように、Subsystem H/Wとして提供される部分はmbed OSでの利用を念頭に置いた形になっているから、この観点でも親和性が高い。

 最後の話題は2015年9月3日の発表である。ARMとIBMは共同で「IBM IoT Foundation」と呼ばれるCloudベースのIoTプラットフォームを構築する事を発表している(IBM and ARM Collaborate to Accelerate Delivery of Internet of Things)。

 これを経由することで、IBMの提供するBluemixにmbed Deviceから簡単にアクセスできるようになり、また逆にIBMのAnalytics Toolでmbed Deviceの管理も可能になるとする。mbed Deviceをベースにどんなアプリケーションを構築するにせよ、バックエンドを迅速に構築できる用意がこれで整った、というワケだ。

 既にmbed OSやmbed Device Connector、mbed Clientはβ版の提供が開始されており、mbed Device Server 2.5 releaseやmbed TLS 2.1.0 releaseも用意されている。正式版の出荷開始ももう間もなくである。このあとどんな展開になってゆくか、楽しみである。

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