欧州連合は、前述のリスボン戦略の中で、「2010年までに欧州を、世界で最も競争力があり知を基盤とする経済圏として構築すること」を掲げ、eヘルス行動計画と並行して、さまざまな研究開発推進策を展開してきた。
例えば、ライフサイエンス/健康医療の分野では、2002年1月に欧州委員会が「ライフサイエンスとバイオテクノロジー〜欧州戦略2010(Life sciences and biotechnology A strategy for Europe 2010)」(関連資料、PDFファイル)を採択し、研究と市場開拓の促進、競争力と知識移転とイノベーションの強化、生命科学・バイオテクノロジーのリスクに関する社会への説明、生命科学・バイオテクノロジーへの規制の見直しなどを提唱している。
また、欧州委員会が2007年10月に公表した「EUの健康への新しい戦略的アプローチ2008−2013欧州委員会が2007年10月に公表した「EUの健康への新しい戦略的アプローチ2008−2013」(関連資料)では、健康領域で基本的な責任を負う加盟国と、欧州の付加価値を提供しながら健康上の脅威などで加盟国を補完するEUの役割分担を示した上で、分野横断的なアプローチを提唱している。
EUが2007〜2013年に実施した「第7次欧州研究開発フレームワーク計画(FP7)」(関連資料)をみると、FP7全体の総予算額505億ユーロ(約6兆8000億円)のうち、分野別内訳では、情報通信技術(28%)に次ぐ2番目に健康(19%)が位置付けられ、その後に、運輸・航空(13%)、環境・エネルギー(13%)、ナノテク・材料など(11%)が続いている。
現在EUは、FP7の次期計画として、2014〜2020年を対象期間とする「ホライズン2020」(関連資料)をスタートさせ、研究の成果をイノベーションや経済成長、雇用につなげることを目的としながら、
という3つの項目を優先事項に位置付けている。
早くから経済が成熟化し、少子化や高齢化に伴う社会的課題に直面してきた欧州諸国の経験/ノウハウや文化特性を生かしながら、研究開発の成果を事業化し、社会課題解決のソリューションとして欧州域外市場へのパッケージ輸出を図ろうというのが、EUの戦略だ。
ホライズン2020の各プロジェクトでは、EU域内だけでなく、域外の研究機関や企業にも参加を呼び掛けている。eヘルスに関わるライフサイエンス/健康医療の分野では、北米を中心に、既存の大手ベンダーからスタートアップ企業に至るまで、さまざまな海外企業がEUに進出している。
加えてホライズン2020では、中小企業によるイノベーション創出を積極的に支援しており、医療機器向けに特化した「Horizon 2020 Dedicated SME Instrument - Health」(関連資料)などのプロジェクトが展開されている。図1は、欧州委員会の中小企業庁による「Horizon 2020 SME Instrument」の告知事例である(関連情報)。
日本政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)は2015年6月30日、「世界最先端IT国家創造宣言」の改訂版を閣議決定し、「課題解決型IT利活用モデル」の構築を柱としているが(関連資料、PDFファイル)、産学官が一体となって戦略的に動くEU諸国のeヘルスと比較すると、大きく出遅れている。
健康医療分野向けのロボットやIoT(モノのインターネット)、ビッグデータの領域では、日本からEU域内に進出して事業化の前倒しを図ろうとする企業も現れており、今後のeヘルス動向が注目される。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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