ZFと聞いてすぐに頭に浮かぶのが、高いシェアを誇るトランスミッションだ。2015年中期現在、年間260万基以上がドイツのザールブリュッケンと米国のグレイコートにある工場で生産されている。商用車用トランスミッションで高いシェアを誇る点についてのリポートは別の機会に譲るが、乗用車の分野でも、特に後輪駆動用トランスミッションでは圧倒的なシェアを誇ってきた。ドイツの高級車メーカーなどがFR車に採用する8段ATに加えて、2013年にJaguar Land Rover(ジャガーランドローバー)やChrysler(クライスラー)に採用されているFF車用9速ATを発表して以降、ATの多段化をけん引してきたといっても過言ではない。
今回は、第2世代の8速ATと9速ATを搭載したテスト車を試乗することができた。具体的には、第2世代の8速ATがBMW「5シリーズ」、9速ATがクライスラー「ジープ チェロキー」やランドローバー「ディスカバリー」、ホンダ「CR-V」やFiat Automobiles(フィアット)「500X」になる。
2014年から第2世代に移行した8速ATは、最大トルクの許容量が500Nmと750Nmの2機種に加えて、最高時速120kmまでのEV走行に対応するプラグインハイブリッド車仕様も用意される。フリクションロスを低減して高効率化をはかり、トーショナルダンパーを採用して振動を抑えている。プラグインハイブリッド車用8段ATは、コンベンショナルなトランスミッションと置き換えが可能で、最高出力90kWのモーターを内蔵している。
残念ながら8速ATに関しては、テストコース内での試乗だったために、走行距離や試乗シーンが限られており、従来との違いを体感できるほどの差は感じられなかった。第1世代の8速ATでも十分に静粛性が高かった上に、搭載車種ごとにATのシフトプログラムなどの設定が異なるためだ。むしろ、こうした違いはユーザーとして長く乗っていると感じるものだ。
9速ATに関しては、発表時に「果たしてそれほどの多段化が必要か」「ビジーに感じるのでは」という疑問の声も聞かれたが、肝心のシフトフィールは非常にスムーズだった。市販車に採用したジープ チェロキー、ランドローバー「イヴォーク」ともに燃費性能が向上している。
また試乗してみると、2速で発進し、時速120km付近まで速度をあげると、ようやく9速まで入るという事実から、1速はけん引用であり、9速は厳しくなる燃費規制に対応するためだと理解できる。最大のライバルはアイシン・エイ・ダブリュ製の6速ATだが、ZFの9速ATはFF車の限られたエンジンルームにも対応可能でありながら、ZF自身が提供する6速ATと比較して最大で約16%もの低燃費化を図れる。
6速ATと比べてギヤセットの数は変わらずに、ドグクラッチをはじめ、幾つかの部品を追加することにより、高速走行時の低燃費化を図れるメリットがある。さらに、シフトプログラムを工夫すれば走りの魅力を増すこともできる。世界中で燃費規制が進むなか、エンジンと組み合わせたパワートレイン全体にとって重要な技術だといえる。
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